「強い公取委」こそ成長戦略のカギ

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 「競争の番人」である公正取引委員会竹島一彦委員長が9月26日に退任し、委員長が空席となった。国会会期末までに政府与党が人事案を提示しなかったためだ。図らずも民主党公取委軽視が露呈した格好だ。

 竹島氏が委員長を務めたこの10年は公取委にとって激変期だった。長い間「吠えない番犬」と揶揄(やゆ)されてきた同委を脱皮させるべく、竹島氏は機能強化に取り組んだ。退任会見でも竹島氏は「吠える番犬、経済界から注意を払われるような組織にしたいと思ってきたが、成果は得られた」と語った。中でも2005年に導入した課徴金減免制度の切れ味は鋭い。談合を公取委に申し出た会社の課徴金が減免される制度。企業は密告奨励だと批判的だが、日本の談合風土に風穴をあけた。

 竹島氏の委員長就任は2002年。当時は小泉純一郎政権時代で、規制撤廃・自由化による構造改革に着手したころだった。従来の既得権者によるなれ合い型をぶち壊し、市場による競争原理を働かそうとすれば、「強い公取委」が必要だった。小泉批判で政権を奪取した民主党公取委に関心が薄いのは、ある意味当然なのである。

 競争の厳格化は、企業にとっては厳しい。談合で競争を避けることができれば、つぶれる企業は出ない。一見雇用も守られるように見える。だから企業の担当者の中には「談合は必要悪だ」と平然という人もいる。

 だが一方で、本来なら淘汰(とうた)されるべき企業が生き残り、業界全体は弱体化する。その分、新規の雇用は生まれない。国際競争力も落ちる。日本企業は今、まさにそうしたゆでガエル状態になっている。

 民主党政府も発足以来、成長戦略を何度も打ち上げてきた。だが、その多くの施策は、企業に対する助成金の支給やエコポイントなど形を変えた補助金、特定の商品に対する減税、企業への融資制度の拡充など「アメ」を配ることばかりだ。だが、実質ゼロ金利でカネ余りの現在、カネをもらった企業が必死に競争を始めるはずはない。

 国による援助が本当に強い企業を作るのか。9月の日本航空の再上場が、競争のあり方を巡る議論に一石を投じた。破綻した会社に公的資金を入れて再生させるのは、真面目に経営してきたライバルを競争上不利にする、という批判が出たのだ。

 実は、日本にはどんな場合に私企業を国が救済することを許すか、明確なルールはない。業界を担当する役所の胸三寸といってもよい状態なのだ。

 竹島氏は国会に呼ばれた際、質問に答えて「国家補助は個別企業にしてはいけないというのが常識だと思う。それを覆す例外には、よほど大きな公益上の要請が必要だ」と語っていた。常識はずれの補助金漬けはそろそろ終わりにして、企業に切磋琢磨(せっさたくま)させる「競争」を促す政策を取る時期だろう。それこそ、成長戦略のカギになる。(ジャーナリスト 磯山友幸