「国立株式会社」を霞が関の隠れ蓑にするな

 安倍晋三内閣の経済政策アベノミクスが動き出した。「大胆な金融緩和」「機動的な財政出動」「民間投資を喚起する成長戦略」の三本の矢だという。すでに金融緩和と財政出動は動き出したが、焦点は民間投資の喚起だ。政府だけが踊っても、民間の企業が動き出さねば強い経済の復活などあり得ない。

 そんな3本目の矢の具体策として出てきたのが「官民ファンド」だ。農水省は1日、農林漁業成長産業化支援機構を設立した。農家などが、加工・流通などと連携した事業に、サブファンドを通じて投資する。

 また経済産業省はアニメや音楽、ファッションなど日本の文化を海外に売り込む企業に出資する「クール・ジャパン・ファンド」を準備中。環境省地球温暖化の防止に取り組む企業に投資する機構を作る方針だ。

 こうした官民ファンドの特徴は、そろって株式会社であること。国と民間が共同出資する形になっている。だが出資金の大半は国のカネで、農水省の機構の場合、300億円の国の出資に対し、民間のカネは今のところ20億円ほど。いわば国立の株式会社なのだ。

 政府が大半の株式を持つ会社といえば、日本郵政も同じ。100%の株式を国(財務大臣)が持つ。ところが「民間企業」という建前になっていて、国は経営に口出ししない。財務省OBの斎藤次郎社長が突然退任して同じ財務省OBの坂篤郎氏に代わったが、株主である財務大臣にも、監督官庁総務大臣にも一切相談はなかったという。つまり霞が関のやりたい放題になっているのだ。

 国が出資するのは国民の税金だ。つまり株主は本来は国民なのである。にもかかわらず国立株式会社の経営を国会が事細かにチェックする体制になっていない。これは官民ファンドも同じ。投資先の決定を誰がするのか。経営がうまくいかず、投じた国民のカネが回収不能になった場合の責任は誰が取るのか。いずれも明確ではない。

 株式会社は株主の利益を最大化するのが本来の目的だ。こうした経営監視の仕組みをコーポレート・ガバナンス(企業統治)と言う。日本企業の場合、それがなかなか働かない。諸外国に比べてもうけが少ないのは、経営にかかる株主の圧力が弱いからだ。

 それに輪をかけてガバナンスがきかないのが、国立の株式会社だろう。株主総会は、名目上の株主である財務大臣ひとり。そんな「儀式」で経営に緊張感を与えられるはずもない。せめて国会で株主総会を行うことが必要だろう。さらに民間企業よりも厳しい情報開示ルールを課すなり、損失が生じた場合の取締役の責任を明確化するなど、株式会社として規律が働く仕組みにすることだ。

 「どうせ国のカネだから」と規律が働かないことになれば、それは形を変えた補助金である。国立株式会社を霞が関の隠れみのにしてはならない。(ジャーナリスト 磯山友幸