“アベノミクス”は時計需要に追い風(クロノス日本版3月号)

アベノミクスの効果で高級時計や宝飾品などが売れているようです。1月の百貨店売上高ですでに効果が出ていましたから、2月3月はさらに増えているのではないでしょうか。株高による「資産効果」ですね。高齢者を中心に資産を持っている人が多いわけですが、株高はそうした人たちの資産を一気に増やしています。今年2月に発売された時計雑誌クロノス日本版の定期コラムを編集部のご厚意で以下に再掲します。綺麗な隔月刊誌ですので、一度ウェブも覗いてあげてください。→http://www.webchronos.net/

Chronos (クロノス) 日本版 2013年 03月号 [雑誌]

Chronos (クロノス) 日本版 2013年 03月号 [雑誌]

 第2次安倍晋三内閣が発足した。デフレからの脱却など経済再生を最優先課題に掲げたこともあり、内閣発足前後から円安が進み、株価も大幅に上昇している。明るいムードが漂っているが、これで景気は好転するのだろうか。
 安倍首相が掲げる「大胆な金融緩和」と「積極的な財政出動」など”アベノミクス”によって、経済がインフレ的になるのは間違いなさそうだ。だが、それで持続的な景気回復の波に乗れるかどうかは別の話である。
 焦点のひとつは消費の行方だ。円安になれば輸出産業が潤い、雇用も増え、給与も増えると思いがちだが、実際のところ日本経済はもはや単純な輸出主導型ではなくなっている。むしろ消費のインパクトの方が大きい。インフレ的になりモノの価値が上昇基調になった時に消費がどうなるか、である。
 ひとつの指標が百貨店の売上高推移だろう。日本百貨店協会のまとめによると、全国のデパートの売上高は年々減少が続いている。リーマンショック後の2009年には前年比10.1%と大幅に減少、10年3.1%減、11年2.0%減と減り続けている。
 12年も東日本大震災の反動で急増した3月、4月を除くと月の売上高はマイナスが並んでいる。消費は全般に厳しいと見ていい。ところが、そんな中で特異な数値を示しているものがある。「美術・宝飾・貴金属」の売り上げである。大震災前まではマイナス続きだったが、震災後の11年6月からプラスに転じた。以後、マイナスになったのは11年10月と12年7月、8月の3カ月だけで、ほかはすべて前年同月比プラスになった。高級時計を含む宝飾品などは大いに売れているのである。
 「被災地である東北地方で高級品が売れている」という記事が新聞や週刊誌を賑わせたのは11年の夏から12年の春にかけてだった。多額の義捐金や保険金、保証金などが被災地に支給された結果、現金を手にした住民が消費に走った結果だという解説だった。仙台の繁華街が大繁盛しているとも言われた。
 この傾向は地域別の百貨店売上高にも表れている。仙台の百貨店の11年度(11年4月~12年3月)の売上高は12%も増えた。この間の全国平均が仙台も含めて0.2%増だったから、いかに東北地方で消費が盛り上がったかが分かる。中でも「美術・宝飾・貴金属」の売り上げは大きく増えた。日本全体の消費を東北地方の高額消費が引っ張る格好になっていたわけだ。
 しかし、昨年5月以降、状況が変わっている。前年大きく伸びたことの反動もあり、仙台など東北地方の高額消費がマイナスに転じたのだ。多額の復興予算が計上されているものの、工事がなかなか進まないなど、おカネが住民の懐を潤す状況になっていないのだろう。住宅建設なども進んでいないため、新規の消費需要も盛り上がっていない。一方で、先行きへの不安感から財布の紐を引き締め、高額消費を見送っているのではないか、と思われる。
 にもかかわらず全国で「美術・宝飾・貴金属」が堅調なのは、東北からその他の地域が波及しているからだ。名古屋地区や東京地区などで、高級品が売れている。復興予算の予算執行が、東北以外の建設会社や建材会社などを潤しはじめているのだろう。
 では、東北の高級品需要は終わったのかというと、そうではない。復興が進み住宅建設などが本格化すれば、東北地方でおカネが再び回りはじめる。そうなると消費需要が再び盛り上がる可能性は十分にある。
 だがそれ以上に、インフレ効果による高額品ブームが到来する予兆がある。金融緩和によって株価や地価が上昇すれば、いわゆる「資産効果」で高額品の消費におカネが回る。いわゆるミニバブルである。資産価格の上昇は「持てる人がより豊かになる」効果がある。一方で物価が上昇すれば庶民の生活は苦しくなり、食料品や生活雑貨などの消費は抑制される。つまり、生活必需品などを中心に消費は全体的に落ち込むが、高額品だけは売れるという消費の二極化が起きるのではないか。アベノミクスで高級時計へのニーズは高まることになりそうだ。

『クロノス日本版』45号(2013年3月号)2013年2月4日発売 http://www.webchronos.net/