東京五輪までに2000万人 外国人旅行者倍増を民間で

秋の連休はどこの観光地も満員で、ホテルや飛行機がなかなか取れないこともありました。外国人旅行者の増加はまだまだ序の口。国主導で旅行者を増やすのではなく、民間の知恵で日本の魅力を磨いていきたいものです。ウェッジの連載に掲載された記事を編集部のご厚意で再掲します。
オリジナルページは→http://wedge.ismedia.jp/articles/-/3315?page=1


 日本を訪れた外国人旅行者が、今年7月、初めて月間100万人を突破した。安倍晋三首相が推進する経済政策「アベノミクス」で円安が進んだことから、外国人旅行者が急増しているのだ。

 日本政府観光局の推計では1〜8月の累計で686万4400人に達し、前年の同期間に比べて21.4%も増えた。このままのペースで行けば、今年の訪日外国人旅行者は初めて1000万人を超えることになりそうだ。「観光立国」を掲げる日本政府が長年目標にしてきた大台の達成である。

 1000万人というと多いように思われるかもしれないが、実は「観光立国」と言うにはまだまだ程遠い。

 世界をみると、2012年に最も多くの外国人旅行者を受け入れたのはフランスで、その数何と8300万人。日本はこの年836万人だったので、ざっと9倍である。2位は米国の6697万人、次いで3位は中国の5773万人だった。

 日本は、アジアの中でも、香港の2377万人やタイの2235万人、マカオの1358万人よりも少なく、世界で33位に過ぎないのだ。

 安倍内閣が6月に閣議決定した成長戦略「日本再興戦略」には、訪日外国人旅行者の促進策として「ビジット・ジャパン事業」が盛り込まれている。30年に3000万人にする計画だという。途中経過の2000万人の目標年限は定められていないが、東京でのオリンピック開催も決まったことだし、20年に2000万人を目標にしてみてはどうか。

 2000万人という数字は決して不可能ではない。タイは人口6600万人で2235万人の外国人旅行者が訪れている。人口比で言えば、タイの2倍の観光客が日本を訪れてもおかしくはない。

 外国人旅行者を今の2倍にするには何が必要だろうか。

 もちろん空港などインフラの整備は必要になる。すぐに公共投資で新しいモノを作るという話になりがちだが、幸いなことに日本には全国に100近い空港があって稼働率はまだ低い。

 富士山静岡空港など観光地に近いのにほとんど飛行機が飛んでいない空港もある。ハコモノを作ることより、オペレーションやマーケティングに工夫を凝らすことが重要なのではないだろうか。

多言語の案内表示など
民間で可能な工夫を

 お上頼みでなくとも外国人観光客を増やす工夫はいろいろできる。

 国際機関に勤める友人は世界各国を出張で飛び回り、日本も訪れるが、改善すべき点はたくさんあると指摘する。

 例えばホテル。早朝に成田空港に着いて、その足で午前中に都心のホテルにチェックインしようとすると、午後3時の規定時間まで部屋に入れないと言われることが少なくないという。時間に正確な日本人の長所が、逆に融通がきかない短所だということか。

 欧米では正午が多いチェックアウトの時間も、日本の昔ながらの慣習で午前10時のところがまだ多い。ホテルや旅館のちょっとしたオペレーションの見直しで改善できるに違いない。

 世界的な「観光立国」で鉄道王国でもあるスイスでは今も、駅から駅まで荷物を託送する「チッキ」サービスがある。少し早めに次の目的地宛てに荷物を送っておけば、到着駅で荷物を受け取れる。

 日本も昔は「チッキ」や駅の構内で荷物を運ぶ「赤帽」がいたが、今はほとんど姿を消した。

 宅配便が普及しているので、ホテル間や駅間の荷物輸送にも使える。外国人観光客に分かりやすく便利なサービスを生み出す余地はありそうだ。

 また、日本国内のJR全線が乗り降り自由な「ジャパンレールパス」は不慣れな旅行者には大変便利だが、新幹線の「のぞみ」には乗ることができない。最近は「のぞみ」が中心のダイヤ編成になっているだけに、切符の代金を少々高くして「のぞみ」にも使える種類も作って欲しいという声が聞かれる。

 国土交通省は道路案内標識の英語表記を、外国人旅行者にも分かりやすく改善することを決めたという。

 例えば、これまで「公園」を日本語読みの「Koen」としてきたものを「Park」に変更するそうだ。外国人が理解できる表記に変えるというのは「観光立国」をうたう以上、前提ともいえる話だが、貴重な一歩だ。

 大都市のデパートなどでは英語、中国語、韓国語などの複数国語での案内表示が一般的になってきた。外国人旅行者が「上顧客」になってきたからで、外国語ができる専門のスタッフを置くところも出てきた。

 政府は外国人旅行者が日本国内で土産物として購入した全物品を「消費税免除」の対象にするという。これまでは化粧品や菓子類などは免税の対象外だった。欧州などで一般的な出国時に消費税分を還付する方式を検討している。そんな免税範囲の拡大をどう売り上げ増に結びつけていくかも民間企業の知恵次第だろう。

 町中のレストランでも英語表記のメニューを作るなど、外国人旅行者の視点からさまざまな見直しをしていくことは、民間企業のちょっとした工夫でできそうだ。

日々の生活で意識改革
日本の宝を磨こう

 今後も少子化による人口減少が避けられない日本にとって、消費を支えてくれる外国人旅行者の獲得は待ったなしだ。

 もちろん、観光地に魅力がなければ旅行者は来ない。歴史的な文物など古い物を大切にし、自然環境を守り、景観をより美しくする。そうした観光地の価値を磨き上げる作業は、政府や市町村の仕事というよりも、日々の生活の中での意識改革が大事だ。

 観光客を呼び込むことは、日本の良さ、地域の良さを見つめ直し、それに磨きをかける作業に他ならない。

 京都・清水寺に続く清水坂界隈では、若い男女の着物姿が目に付く。日本の若い女性に和装がブームなのかと思いきや、多くがアジアからの旅行客だ。町中で着付けをしてもらい、観光地を歩くツアーが人気なのだそうだ。

 せっかく日本に行くのだから日本の文化に触れたいというのが外国人旅行者の率直な気持ちなのだ。それ以外にも外国人に知ってほしい日本の良さはたくさんある。

 冷戦の終結と経済のグローバル化によって、今や世界中が旅行ブームと言える時代に入った。

 日本に存在する外国人旅行者が魅力を感じる文化や自然、エンターテイメント、サービスは数知れない。今こそ、山のようにある日本の宝に磨きをかける時だろう。

◆WEDGE2013年11月号より