大企業の交際費が一部非課税へ ないよりマシの施策だが「バブル再び」はあり得ない

政府は、大企業の交際費も一部を非課税とするそうです。ところが、いくら非課税になるのかと思ったら、中小企業並みの年間800万円だそうで、消費税増税の影響を吸収するには程遠い規模になる模様です。消費の行方に不透明感が漂う中で、4月の増税で景気が失速しかねません。現代ビジネスにアップされた記事を編集部のご厚意で以下に再掲します。オリジナルページは→http://gendai.ismedia.jp/articles/-/37645


 「大企業の交際費、一部非課税に」---。
 読売新聞は11月23日、政府・与党の方針として、こう伝えた。大企業が取引先の接待などに使う交際費の一部を税務上の損金、つまり会社の経費として認め、その分を課税対象から外すという内容だ。12月に自民党がまとめる税制改正大綱に盛り込み、来年4月から実施される見通しだという。
政権交代以降、麻生太郎・副総理兼財務相が導入に前向きな姿勢を見せてきたもので、日本経済新聞も10月12日に、財務省が検討していると報じていた。

 大企業の交際費が一部とはいえ、非課税になれば、企業はその分、交際費支出を増やすとみられる。税金を払うくらいならば、事業につながる取引先との接待や、贈答品に当てようという心理が働くからだ。

企業の交際費は未だ2011年で2兆8,000億円

 企業がおカネを使うようになれば、消費にはプラスに働く。
 来年4月から消費税率の引き下げを決断した安倍晋三内閣にとって、景気の腰折れを回避するのは至上命題。交際費の損金算入が、増税による消費の落ち込みを吸収する切り札になり得るということは以前にもこのコラムで書いた通りだ。

 だが、当然のことながら、交際費すべてが非課税になるわけではない。何せ企業の交際費は大きく減ったとは言え2011年で2兆8,000億円もある。
 もちろん、大企業は税金を払ったうえで、これだけの交際費を使っているのだ。ちなみにバブル期に比べると3兆円、10年前と比べても1兆円減った。この全額を経費にするなど、財務省が許すはずはない。

 では、いくら非課税にするのか。

 読売新聞は記事で「政府・与党は資本金1億円を超える大企業も中小企業と同様に扱う方針だ」と書いている。

 実は、資本金1億円以下の中小企業に対しては今年度から、最大800万円まで全額を損金算入できるよう特例が実施されている。前の年度までは、上限が600万円で、しかも9割までしか損金算入できなかったから、中小企業にとっては大きな改正だった。
 1社当たりの金額はさほど大きく感じられないかもしれないが、中小企業数は419万社にのぼるから、経済全体に与えるインパクトは大きい。

 ところが、大企業も中小企業「同様」ということは、1社あたり800万円を上限にするということだろうか。もちろん、無いよりマシであるには違いないが、大企業の売り上げや利益の規模からすれば、ごくごく少額である。

たった1,000億円では消費増税の前に焼け石に水

 しかも、これでは来年4月の消費税率引き上げによる消費の落ち込みを吸収するには程遠い。なぜなら大企業は1万2000社あまりしかないからだ。1社当たり800万円として960億円である。

 消費税率の引き上げによる税収増は初年度、5兆1,000億円と見込まれている。
 逆に言えば、5兆円余りの資金を消費する個人や企業から吸い上げるわけだ。そこに1000億円では焼け石に水だろう。財務省からすれば、親分である麻生大臣の顔は潰せないが、本気でやる気はない、ということだろうか。

 本来は、交際費の損金算入で目先の税収は減るように見えても、それが消費に回れば消費税として戻ってくる。内部留保を溜め込んでいる大企業の消費意欲に火を付ければ、消費を下支えする役回りを果たすとみられるのだが、目先の影響を気にする役所からすれば、なかなか飲めない話なのだろうか。

アベノミクスが追い風になって伸びていた消費も、ここに来て不透明感が漂っている。
 全国百貨店協会がまとめた10月の全国ベースの売上高の伸び率(店舗調整後)は対前年同月比マイナス0.6%だった。10月上旬に消費税率の引き上げが正式決定されるなど、消費者マインドに変化をもたらした可能性もなくはない。今年に入ってマイナスになったのは4月と7月に次いで3回目だ。
 協会では例年にない不順な天候のため、入店客数が減り、秋冬物衣料などが影響を受けた、と分析していたが、特殊要因なのかどうか。

 数字で特徴的だったのは、食堂・喫茶部門の売上高が2.5%のマイナスになったこと。2012年11月以来11カ月続いてきた増加が止まった。天候不順による一時的な現象なのか、年末に向けて消費がどうなっていくのか、気になるところだ。

 ただし、依然としてアベノミクスが消費にプラスに効いているという見方もできなくはない。

「美術・宝飾・貴金属」は高い伸びを示している

 「美術・宝飾・貴金属」の売上高が19.7%増と高い伸びを示しているからだ。
 昨年9月以来プラスが続いており、とくに今年3月以降は8月まで2ケタの伸びが続いた。9月は6.3%の増加とやや鈍化したが10月で再び伸び率が大きくなった。株価が比較的堅調だったことなど「資産効果」によって高額品消費の活況が続いている。

 高額品は贈答用など企業の「交際費」から支出されるものも少なくない。
 中小企業の交際費損金算入が、こうした高額品消費を支えているという声もある。時計や絵画、美術品などを開店祝いなどとして贈るようなケースだ。百貨店の売り場担当者は領収書を手書きするが、会社名での領収書を求める顧客が増えているという。

 大企業の交際費が本格的に損金算入されるようになれば、こうした高額品消費が一段と盛り上がる可能性は十分にあるのだ。

 大企業の交際費を非課税にと言う主張に対して、「バブルが再び起きる」という批判の声も聞く。
 だが、そんな心配には及ばない。交際費はバブル期から20年以上かけて半減しており、「交際費天国」を謳歌したかつてのサラリーマンの「文化」はもはや企業から死滅している。もちろん、一部の業界には「接待」は根強く息づいているが、多くの大企業のサラリーマンには「経費節減」が染みつき、「交際費」に無縁な人が増えている。仮に上司に「交際費を使え」と言われても、業務成績に直結するような使い道を探す術を持たないサラリーマンが増えてしまった、と大企業の営業部長は語る。

 もちろん大企業の非課税枠の上限がわずか800万円では、そもそもバブルを気にするには及ばない。