気づいていますか?あなたの電気代が一年で急増した噴飯ものの理由 これがこの国のやり方なのか…

現代ビジネスに12月14日にアップされた原稿です。

オリジナルページ→http://gendai.ismedia.jp/articles/-/50457

あれ? 電気代だけ増えている?

アベノミクスによる景気回復をなかなか実感できないのは、消費の落ち込みが著しいからだ。

総務省が11月29日に発表した10月の家計調査によると、単身世帯除く2人以上の世帯の消費支出は28万1961円で、物価変動の影響を除いた実質で0.4%減った。8カ月連続の減少だが、うるう年の効果を除外すると、1年2カ月連続して減少したことになる。

実質で減少が目立ったのは「保健医療」の4.9%減や、「教育」の2.8%減、住居費の1.6%減、こづかいや交際費などの「その他の消費支出」の1.5%減など。

支出の4分の1以上を占める「食料」も1%減った。悪天候による野菜価格の高騰によって、買い控えが起きたほか、節約志向が強まって交際費などを抑えている可能性があるという。

そんな中で、大幅な増加が目立ったのが「高熱・水道」の6.1%増。家計支出での電気代の負担が増えているのだ。

実は、家計支出が減り続ける中で電気代は増えている。

総務省の年平均の家計消費支出統計を見ると、2000年以降、支出はほぼ一貫して減少している。2000年に31万7328円だったものが2006年には29万4943円と30万円を割り、2011年には28万2966円を記録。2015年の平均は28万7373円と、15年で3万円弱減少している。率にして9.4%の減少だ。

これに対して、電気代は2000年に9682円だったものが、12年には1万198円と1万円台にのせ、昨年は1万1060円となった。15年で1378円、14%増えているのだ。

オール電化住宅の広がりなど、電気を多く使うようになったということもひとつの理由には違いない。だが、もともと日本の電気代は国際的にみても高いと言われ続けてきた。それを受けて国は電力の自由化を進め、電力料金の引き下げにつなげようとしてきたのだ。

それにもかかわらず、家計に占める電気代の負担は増している。消費に占める電気代の割合は3.1%から3.8%に上昇しているのだ。この間、ほかの光熱費への支出はどうだったか。ガス代は5888円から5660円へと、むしろ下がっている。

通信費は9521円から1万2779円へと急増しているが、これはインターネットの普及やスマートフォンの広がりなどが背景にある。政府が家計を圧迫している大きな要因として通信費に目を付け、料金の引き下げ策を講じているのは周知のとおりだ。

通信費や電気代など公共料金の負担が減れば、その分、他の消費に資金が回る可能性が出てくる。財布のひもが緩めば、娯楽費や交際費、外食などに支出が向く。それが消費全体を押し上げるきっかけになると考えていい。

一方で、公共料金の支払いが増えれば、一段と財布のひもを締めることになり、一般の消費財におカネが向かわなくなる。それが今起きている問題だ。

給与は増えても…

安倍晋三内閣は「経済の好循環」を掲げ、円安で企業業績が好転した分を、賃上げに回すよう企業経営者に呼び掛けている。

もちろん、給与が増えれば、消費に回るおカネが増える可能性はあるのだが、社会保険料の増加など、実質的な税金が増えており、可処分所得はなかなか増えない。そこに公共料金的な性格が強い通信費や電気代の負担が積み重なっているのだ。

では政府は、通信料金同様、電気料金も引き下げるための施策を取ろうとしているのか。電力の自由化など、表面上の政策は電気料金引き下げ推進のはずだ。だが、現実にはまったく逆の動きに出ている。

経済産業省は12月9日に開いた「東京電力改革・1F(福島第1原発)問題委員会」の席上、東電福島第1原発廃炉や賠償などの事故対応費用が計21兆5000億円になるとの試算を示した。これまでの想定は約11兆円だったから、一気に2倍近くに膨らむことになる。

新しい資産では、廃炉費用が従来の2兆円から8兆円に、賠償が5兆4000億円から7兆9000億円に、除染費用が2兆5000億円から4兆円に、中間貯蔵施設関連の費用が1兆1000億円から1兆6000億円に膨らむとしている。もちろん、この金額で本当に終わる保証はない。

国の立場は、福島原発事故の費用負担は一義的に東京電力が担う、というもの。その「建て前」を通すために、電力料金などを引き上げて、実質的に国民に負担させる絵を描いている。

「解体」せずに料金値上げとは

しかも、今年4月に電力小売りに参入した「新電力」の利用者にも負担を求めようとしているのだ。賠償費用のうち2兆4000億円分を送配電網の利用料金に上乗せして長時間をかけて回収していこうというのだ。これによる新電力契約者の電気料金は一般標準家庭で月18円程度の値上げとなる、という試算を出している。

18円といえば、いかにも小さな金額のように見えるが、いったん新電力にも払わせる仕組みができれば、あとは料金に上乗せし続けることができるわけだ。

現状では、原油価格などは比較的安値で安定しており、廃炉費用を考えない通常の電力料金ベースも大きく上昇する懸念はない。しかし、今後、原油価格や液化天然ガスLNG)価格が上昇すれば、また電力料金の引き上げが不可欠になる。

産業向けの電気料金が上がれば、製造コストや店舗のコストに跳ね返り、結局は最終消費者にツケが回る。輸出品はコストが上昇すれば、競争力を失うことになる。

本来ならば、東京電力を「清算機関」化し、保有する資産の売却資金で廃炉や賠償に当たるべきだろう。ところが、東電は「解体」されることに全力を挙げて抵抗。自分たちの責任で廃炉を全うすると宣言して生き残りを図っている。

実質的に破たんしている企業を生き残らせるために、電力料金という「広く薄く取れる」仕組みをフル活用しようというのが今の東電改革だろう。

福島第一原発事故の最終処理は、いずれにせよ、国民負担で行うほかないのは明らかだ。国民からすれば、税で負担するか、電気料金で負担するか、という違いだ。だとすれば、どうすれば国民負担を最小に抑えることができるのかを考えるべきだろう。今の議論は、東電を存続させることを一義的に考えているように見える。