被選挙権の年齢引き下げで 地域と民主主義の再生を

憲法には「公務員の選挙については、成年者による普通選挙を保障する」(15条)と書かれています。成年者は日本では20歳以上ですから、選挙権が保障されているわけです。それなのになぜ、25歳(参議院議員や県知事は30歳)にならないと立候補できないのでしょう。海外では選挙権や被選挙権の年齢引き下げが大きな流れになっています。なぜ、日本ではそうした議論が起きないのでしょう。ウェッジの1月号(12月20日発売)に掲載された記事です。是非お読みください。
オリジナル→http://wedge.ismedia.jp/articles/-/3498?page=1

 この半年間に行われた地方自治体の首長選挙で「過去最低」の投票率が相次いでいる。2013年8月の仙台市長選挙は30.11%、横浜市長選挙は29.05%、10月の青森県八戸市長選挙は28.48%、神奈川県鎌倉市長選挙は37.40%、11月の千葉県柏市長選挙は24.99%といった具合だ。

 有権者が297万人近くいる横浜市を例に取ると投票に行ったのは86万1000人余り。そのうち、69万4000票余りを、自民・公明・民主が推薦した現職市長が獲得した。投票数の80%を超える得票率だが、得票数を全有権者数で割ると23.41%の支持しか得ていないことになる。

 会社の取締役会でも株主総会でも、物事を議決するには投票に参加する人の最低割合が決められている。定足数だ。取締役会は議決に参加資格のある取締役の過半数株主総会は議決権の過半数を有する株主が出席しなければ会議は成立せず、議決は行えない。地方議会でも定足数は議員の半数だ。

 最近の首長選挙では、半数を大きく下回る投票率しか得られていない。国会の本会議の定足数は3分の1で、これすら下回る投票率が目立っている。

 投票に「行かない権利」もあるので低投票率は問題ない、という主張もある。だが、有権者の多数意見で物事を決めるという民主主義の原則からすれば、危うい状態なのは間違いないだろう。なぜなら、投票所に行く少数の意見しか反映されていないのだから。

 投票率を世代別に見ると、高齢者の投票率は圧倒的に高い。一方で、若者世代が著しく低い。自治体から医療や福祉などのサービスを受ける受益者世代の声が大きく、税金でそれを支える義務を負った世代の声が小さい。これはどう考えても不健全だ。若者は現状に不満がなく、将来に不安がないのかと言えばそうではない。それが「投票」という行動に表れないのだ。

 若者が選挙に行くようにするにはどうしたらいいか。

 現在20歳以上になっている選挙権年齢を引き下げるべきだ、という議論がある。欧米では1960年代から70年代にかけて、選挙権年齢を18歳に引き下げる動きが相次いだ。OECD加盟34カ国のうち18歳でないのは、今や日本と韓国だけだ。しかし、韓国は05年に20歳から19歳に引き下げた。欧州では現在、16歳への引き下げの動きが強まっており、ノルウェーでは11年から投票年齢の16歳引き下げのための特区制度が設けられ、地方自治体の選挙で実験的に行われている。

 だが、日本での選挙権年齢の引き下げとなるとハードルは高い。日本国憲法第15条には「成年者による普通選挙を保障する」と書かれているからだ。仮に18歳に引き下げる場合、各種の法律を変えて成人年齢を18歳とするか、憲法を変えて18歳以上に普通選挙権を与える必要があると考えられている。しかも、選挙権年齢を下げたからと言って、若者が投票に行くことにはならない、という反対論も根強い。

 大学3年生の講義で「選挙権年齢が18歳に引き下げられたら、学生は投票に行くようになるか」と聞いてみたところ、「行くようになる」と考える学生はごく少数だった。3年生だから投票権を持っている学生が多いが、彼ら自身、ほとんど行っていない。

 そこで「もし同級生が立候補できたら投票に行くか」と聞いた。すると多くの学生が「それならば行く」と声を上げた。自分たちの声を代弁してくれる候補者がいれば投票に行くという「当たり前」の反応だったのである。

 日本では、成人になっても立候補できない。公職選挙法で立候補できる年齢、つまり被選挙権年齢を定めているからだ。市区町村長や衆議院議員は25歳、都道府県知事と参議院議員は30歳。実は、被選挙権年齢引き下げの動きが長年くすぶっている。

 安倍晋三内閣は、様々な規制を見直す突破口として「国家戦略特区」を設置することを決め、12月の臨時国会で成立させる。特区でこれまでのルールを先行的に見直し、その効果を検証しようというものだ。この法案を作る段階で、対象が15項目に絞り込まれていたが、実際に法案に盛り込まれたのは14項目。1つだけ役所との最終折衝で落ちた項目があった。

 それが「被選挙権年齢の引き下げ」だった。自治体が地域の事情に合わせて独自に立候補年齢を決めるべきだという発想で、それを特区として認めようというものだった。

年齢規定は憲法違反? 若者の政治参加を

 過去にも構造改革特区などでいくつかの自治体が被選挙権年齢の引き下げを求めてきた。具体的には03年以降、埼玉県北本市広島県三次市が提案している。

 地方自治体の選挙制度を所管する総務省はこうした動きに真っ向から反対している。国家戦略特区については、アベノミクスの経済再生が狙いで、被選挙権年齢の引き下げと経済再生は関係がない、というのを理由に掲げて抵抗した。

 特区提案に賛同する福島県南相馬市長の桜井勝延氏は「若者が自分たちの将来を考えて市のあり方を決めていくには、若者の政治参加が不可欠だ」という。南相馬は、東日本大震災東京電力福島第一原子力発電所の事故に遭遇。どうやって市を再興していくかという難題に直面している。市の再生、経済復興には若い力が必要で、被選挙権年齢の引き下げは、突破口の1つになる、というのである。

 桜井市長のほか、松尾崇・鎌倉市長や石津賢治・北本市長らも、この動きに賛同している。被選挙権の枠を広げることは自らの対立候補を増やすことにもなりかねないが、そんな目先の計算よりも、若者の政治参加の重要性を痛感しているのだろう。

 欧米では、被選挙権年齢も大幅に引き下げられている。国立国会図書館のまとめによると、世界191カ国のうち58%の国で21歳までに被選挙権が保障されている。OECD加盟34カ国に限れば52.9% (18カ国)が18歳までに、79.4%(27カ国)が21歳までに被選挙権を与えている。

 選挙の結果、実際に米国のペンシルベニア州マウントカーボン町では01年に18歳の大学生町長が誕生、05年にはミシガン州ヒルズデール市で18歳の高校生市長が生まれている。

 「憲法が成人に保障する普通選挙権には被選挙権も含まれると考えれば、年齢で被選挙権を規定する公職選挙法憲法違反と言えるかもしれない」と選挙制度に詳しい弁護士のひとりは言う。被選挙権の引き下げは選挙権に比べてハードルが低いのだ。

 総務省は、最終的に反対を「選挙制度は全国一律であるべき」という理屈で押し通した。今後、全国一律の制度改正として被選挙権年齢の引き下げが議論される見通しだ。自治体が独自に首長を選ぶルールが決められること。これが地域再生、民主主義再生の第一歩になるのではないか。


◆WEDGE2014年1月号より