アベノミクス指数ともいえる「JPX400指数」 初の銘柄入れ替えで、業績悪化のソニーなどを除外

月刊誌エルネオス9月号(9月1日発売)の経済解読コラムにJPX400について書きました。エルネオス→http://www.elneos.co.jp/

グローバルな投資基準
 株式市場の値動きを示す「株価指数」では、日経平均株価が最も有名だが、ここへきて「JPX日経インデックス400(以下、JPX400)」という新しい指数が注目を集めている。東京証券取引所を傘下に持つ日本取引所グループ(JPX)が今年一月の取引初日から算出を始めたもので、JPXの説明によれば「グローバルな投資基準に求められる要件を満たした投資者にとって投資魅力の高い会社」四百社で構成するとしている。
 日経平均株価やTOPIX(東証株価指数)は、玉石混交の株式市場全体の値動きを示すことを狙っているが、JPX400は「魅力の高い会社」つまり、東京市場の優良企業の株価動向を映すことを狙っている。
「グローバルな投資基準」とは具体的にはどんな基準か。まず、債務超過や三年連続赤字の企業を除いたうえで、時価総額や売買代金を加味した一千社の母集団を作成する。この一千社を、三年平均のROE(株主資本利益率)と三年累積の営業利益額、時価総額の三項目でランキングし、トップには一千点、最下位には一点という具合に点数を付ける。その総合点が高い順に四百社が選ばれるという仕組みだ。配点はROE四割、営業利益四割、時価総額二割。つまり、儲かっているかどうかが重要な基準になる。時価総額など規模が大きい企業がほぼ自動的に構成銘柄に加えられていた日経平均株価などとは大きく違う。
 このJPX400が面白いのは、毎年一回、構成銘柄の入れ替え戦が行われることだ。六月末のデータを基に計算し直し、八月上旬に指数から外れる銘柄と新たに加わる銘柄が発表される。そのうえで、八月の最終営業日段階で実際に入れ替えが行われる。その初めての入れ替え戦がこのほど行われ、全部で三十一銘柄が入れ替えとなった。では具体的にどんな企業が新たに選ばれて、どんな企業が除外されたのか。

日経平均を上回る値動き
 除外企業で話題になったのはソニー。業績の大幅な悪化によってJPX400から脱落した。ワタミゼンショーホールディングスサイゼリアといった外食産業に除外される企業が目立ったのは、人手不足などによって深夜の店舗営業が難しくなるなど収益環境の激変が背景にある。このほか、スカイマークビックカメラ日立造船キヤノン電子などが除外された。一方で新たに加わったのはパナソニック大和証券グループ本社マツダ、リコー、タダノ、カルビーカシオ計算機など。業績が改善した会社が多く加わった。
 JPX400から除外されるということは、儲かっていない企業という宣告を受けるに等しい。「優良企業」から除外されるわけだから、その企業の経営者にとっては「失格」の烙印を押されるようなものだ。除外による影響は経営者の「名誉」にとどまらない。指数から除外されると株価が急落することになりかねないのだ。
 日経平均株価の銘柄入れ替えでもそうだが、採用が決まると株価が大きく上昇する。株価指数に連動する運用を目指す機関投資家などが、その企業の内容が良いか悪いかにかかわらず、指数の対象になっただけで一定の株数を保有することが多いためだ。逆に指数構成銘柄から外れると、保有株を処分することにつながるため、株価はしばしば急落する。
 JPX400はまだ算出が始まったばかりだが、すでに運用の基準指数(ベンチマーク)とする投資信託などが売り出されている。こうした投信が売れれば売れるほど、運用する投資信託会社は構成銘柄の株式を購入するわけだから、指数に採用されているかどうかは企業の株価を大きく左右するわけだ。
 新指数の計算が始まって三カ月ぐらいは、日経平均株価とほぼ同じ値動きをしていた。ほとんど指数としての差は出ないのではないかという見方もあった。ところが四月以降、ジワジワとJPX400が日経平均株価よりも上回るようになってきている。業績の良い企業の株価のほうが上昇しやすいということもあるが、JPX400連動投信などが広がってきたことが大きい。

アベノミクス指数
 実はこのJPX400指数、安倍晋三内閣が二〇一三年六月に閣議決定した成長戦略に盛り込まれていた。経済をデフレから脱却させ成長軌道に乗せるには、何よりも企業が利益を上げることが先決だ。その企業に利益率を上げさせるための仕組みとして、「グローバル基準の新指数」を取引所に導入するよう求めたのだ。いわば「アベノミクス指数」なのである。実はJPX400の銘柄選定に当たっては、加点対象になる「定性的な要素」がある。一つは独立した社外取締役を二人以上選任していること。もう一つは国際的に通用する会計基準であるIFRSを採用するか採用を決定していること、さらに決算情報の英文資料を開示していることの三点だ。四百銘柄に選ばれるかどうかのボーダーラインにいる時は、この定性項目での加点が効き目を発揮する。これも成長戦略で安倍内閣が求めたことだった。
 さらに安倍内閣は今年六月の成長戦略の改定でも、日本企業のROEを国際水準に高めることを掲げ、コーポレートガバナンスの強化などを盛り込んだ。また、JPX400の先物を早期に上場するよう求めている。先物取引が始まれば、先物と現物の価格差を利用する取引が広がり、さらに指数構成銘柄を保有する投資家が増える。
 加えて、成長戦略の焦点だったGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)改革でも、安倍内閣の強い要請によって、GPIFが運用する際のベンチマークの一つとしてJPX400を加えることになった。GPIFがJPX400をベンチマークにすれば、構成銘柄に年金資金などが向かうことになるわけだ。
 安倍内閣は、歴代内閣に比べて、株価の動向に神経を尖らせている。日本経済の復活には株価の持続的な上昇が不可欠だと考えているからだ。アベノミクスの成功はJPX400の値動きと表裏一体と見ていいだろう。