大塚家具・久美子社長を悩ます「経営不振」と「父の勝訴」  「父娘の争い」第2ラウンド!?

現代ビジネスに4月13日にアップされた原稿です。オリジナルページ→http://gendai.ismedia.jp/articles/-/48420

今度は父親の「勝ち」
1年前の株主総会で経営権を巡って父娘が委任状争奪戦(プロキシーファイト)を繰り広げた大塚家具。総会では娘の大塚久美子社長が株主の支持を得た結果、創業者で父の大塚勝久氏は会社を去っていた。

その勝久氏が起こしていた裁判の判決が4月11日に東京地方裁判所であった。今度は逆に、父親が「勝ち」を収めたのである。

訴訟は、大塚家の資産管理会社「ききょう企画」に対して勝久氏が15億円の社債償還を求めていたもの。東京地裁は勝久氏の訴えを認めて15億円を返済するよう命じる判決を言い渡した。ききょう企画は大塚家具株189万2000株(発行済み株式数の9.75%)を保有する筆頭株主で、総会では久美子社長の支持にまわっていた。

ききょう企画の資産の大半は大塚家具株のため、15億円を返済するには、借金をして返済するか、保有する大塚家具株を売却しなければならない。4月8日にききょう企画が財務局に提出した報告書によると、三井住友銀行から15億円余りを借り入れており、勝久氏への返済はこれを当てる見込み。

もっとも、銀行借り入れを返済するためには保有する大塚家具株を売却することになりかねず、そうなれば、久美子社長の「基礎票」とも言える支持基盤が足元から崩れる可能性があるわけだ。

もともとは、勝久氏が130万株の大塚家具株をききょう企画に譲渡した際、ききょう企画が発行した15億円分の社債と交換した形になっていた。2013年4月が社債の期限だったが、「期限になっても償還されない」として、2013年11月に勝久氏がききょう企画を提訴していた。

これに対してききょう企画側は株式譲渡などの一連の行為は相続対策のスキームで、社債の償還期限は自動延長するという合意があったと主張した。経営権を巡る父娘の対立が起きたため、その約束が反故にされたとしたのだ。

再び父娘戦争が再燃するのか?
もっとも、自動延長などの条件は文書化されていなかったことから、東京地裁は「法的な拘束力を持つ合意があったとは認められない」として、勝久氏側に軍配を上げた。

では、ききょう企画が保有する大塚家具株が売却された場合、父と娘の対立は再燃することになるのだろうか。つまり、勝久氏が再び委任状争奪戦を繰り広げて大塚家具の経営権を取り戻すことはあり得るのか。

現状ではその可能性は低い。勝久氏は昨年、経営を離れて以降、個人で保有していた大塚家具株を大量に売却している。昨年までは発行済み株式の18%余りを保有する筆頭株主だったが、昨年夏以降そのほぼ半分を売却。現在はききょう企画の保有株を下回る2位株主になっている。

裁判は2013年に起こされたが、東京地裁は2年以上にわたって結審させず、しきりに和解を勧めていた。当然である。15億円が返済できないききょう企画が保有株を勝久氏に代物弁済した場合、勝久氏の保有株は30%近くになっていた。裁判所の判断によって株式公開企業の経営権が左右されることになりかねなかったわけだ。

昨年の総会で久美子社長体制が固まり、今年3月の株主総会でも久美子社長が信任されたことから、裁判所としては15億円の返済を命じても経営権に直接影響は及ぼさないと判断したのだろう。

社長として会社を運営する久美子氏を支持しているのは、ききょう企画だけではない。生命保険会社や銀行などの機関投資家や一般の個人投資家も支持している。今年3月の株主総会での久美子氏の取締役選任議案では、74.17%が賛成票を投じた。つまり、ここからききょう企画分の10%弱が減ったとしても、久美子氏は過半数の賛成を得られるわけだ。

イムリミットは5年?
父の勝久氏は4月22日に、自らが設立した新会社「匠大塚」のショールーム日本橋にオープンさせる。久美子氏に否定された「古い大塚家具」流の販売手法を復活させるのかどうかは分からない。新会社で成功を収め、久美子氏流の「新しい大塚家具」を否定できるかどうか。

もちろん久美子社長体制が盤石というわけではない。委任状争奪戦などで負ける心配はまずないとしても、自らが打ち出した「新生大塚」のビジネスモデルが失敗すれば、今度は機関投資家などから批判の声が上がりかねない。

実は、大塚家具をとりまく事業環境は厳しさを増している。今年に入って販売苦戦が鮮明になっているのだ。1月は対前年同月比89.3%、2月は96.3%、3月は88.2%だった。昨年の1〜3月も大きく売り上げを落としており、比較対象が高い数字だったわけではない。

昨年の5月〜6月や11月は、売りつくしセールなどの効果で大きく販売を増やしていたが、年明け以降、厳しい数字が続いているのだ。これは大塚家具の問題というよりも、日本全体の消費後退の影響が大きいとみられる。新設住宅着工戸数が伸びておらず、家具需要が頭打ちになっているのだ。

今後、5月以降は、昨年のセールで売り上げが大きく伸びた反動もあり、厳しい数字が続く可能性が高い。久美子氏が掲げた「入りやすい店」の効果は徐々に出ており、来店客数は増えているというが、本格的な売り上げ増には結びついていないのだ。

昨年の株主総会を前に久美子社長が掲げた中期経営計画では、ここ3年間は構造改革期と位置付けていた。利益成長では株主に報いられない分、配当を倍増するという方針を打ち出し株主の理解を得た。

問題は、将来の飛躍に向けた改革が十分に行われているかどうかだ。5年たって成果が上がらないようでは、機関投資家にも見放される可能性が出てくる。そうなれば、勝久氏に「やはり私の経営が正しかった」と言われることになりかねない。