特別インタビュー 大塚久美子[大塚家具社長] 会社の永続こそ創業一族の利益

日経TOP LEADER 2016年3月号に掲載された大塚家具・大塚久美子社長の特別インタビューを編集部のご厚意で再掲させていただきます。インタビューは2月に行ったものです。

会社の永続こそ創業一族の利益
1年前、創業者で会長の父と社長の長女が経営権を巡って争った大塚家具。
創業一族と会社の関係はどうあるべきなのか。
次世代へのバトンタッチはどうするのか。大塚久美子社長に聞いた。
聞き手、磯山友幸=経済ジャーナリスト

−ファミリービジネスでの事業継承が増えています。昨今の会見の際、創業者と後継者はそもそもタイプが違うという話をされていました。

大塚 どんな会社も、最初は創業者がその人の個性で作り上げるわけです。でもそういう強烈な個性を持っている人は二人としていないわけですよね。ですから、創業者と同じパターンで次の世代が会社を運営するのは難しい。私たちが抱えていたのはそこで、一人の強い個性の創業者によるカスタムメードの会社になっていたものを、どうやって移行していくかという問題に直面していたのです。

−創業者が個性でひっぱる会社から、組織的に運営する会社に変えていくということでしょうか。
大塚 私が大塚家具に入った1994年の時点からある程度、会社の規模が大きくなるのに合わせて、組織の運営も変えていこうという風潮はありました。私が社長になったのは2009年ですが、それ以来、マネジメント層をいかに育成するかという観点でやってきました。ちょうど、前の世代の経営層が定年に差し掛かり、次をどう育てるかが大きな課題だったのです。当時の50歳代の社員は10人もいませんでした。その世代がすっぽり抜けていたのです。
 組織的な運営にできるだけスムーズに移行できればいいのですが、役員や従業員の動き方や働き方、機能の仕方が大きく変わることになりますから、非常に手間がかかる話でした。多かれ少なかれ、エネルギーをかけざるを得ない問題だったのです。もちろん、摩擦が起こることもあるわけです。

−社長に就任される前は、取締役会は大塚一族が占めていたのですね。
大塚 はい。2007年には5人のボードメンバーが全員大塚姓でした。直前に、会社による自社株買いがインサイダー取引だとみなされて課徴金を課される不祥事が起きたのですが、当局の目が厳しかった背景には閉鎖的な同族支配が原因だという見方があったと思います。不祥事を機に私が顧問として会社に戻る際、取締役会に社外取締役を入れることを条件にしました。全員大塚だから何かを起こすわけではもちろんないのですが、やはり、社内だけで役員会を構成すると、どうしても同質になります。同じ経験をしている人の集団は、気が付かないうちにモノの考え方が偏ってしまうものです。
 うまく会社が回っている間は、むしろ効率的なところもあるのですが、社会の考え方や制度が変わると、ついていけなくなってしまう。やはり、多様性を持つことは大切で、リスク分散の観点からも社外取締役が必要だと思いました。

−日本企業の多くは、「よそ者」を取締役に迎えることに躊躇します。大塚家具では抵抗はなかったのですか。
大塚 そこは当時の社長(大塚勝久氏)が社外取締役を入れようといえば反対する人はいなかったと思います。背景に不祥事が有りましたから、ある程度やむを得ないという判断だったのでしょう。

−それ移行も、社外取締役のウエートを高めようとされて、結果としては、それが創業者との摩擦になったように見えます。
大塚 経営層に空白の世代がある中で、世代交代していかなければならないという問題と同時に、日本社会の世代交代も重なっていました。お客様である消費者が大きく変わり始めていたのです。人口減少社会になって住宅着工も大きく減り、消費行動が変わっていく中で、かつての成功したビジネスモデルでも、世の中の変化に適応するためには、変えていかなければならない。マネジメントの転換と、ビジネスモデルの転換という2つの課題に同時に直面したようです。会社のビジネスのあり方も変えなければならないという重荷をかかえることになったのです。

−どういうガバナンスの形を目指していたのでしょう。

大塚 理想形があるわけではありません。与えられたリソースで最善を追求するしかないと思います。昨年、中期経営計画書に盛り込んだように、多様なスキルを持った社外取締役の構成にすることで、社内の経営層の育成が不十分な部分を補うことにしたわけです。

−取締役会は変わりましたか?
大塚 昔と今の両方の取締役会を知る役員は、かなり変わったと実感しているのではないでしょうか。実質的な議論ができるようになったと思います。健全にチェック機能が働くようになりました。いろいろな観点から議論がなされるので、社内も対応していくのは大変ですが、会社にとっては良いことだと思います。

−創業者一族、あるいは大株主との関係はどうあるべきでしょうか。
大塚 いろいろな大株主がいます。それぞれに株を持つ動機、理由、優先順位が違います。同じ投資ファンドでも、今年と来年では優先順位が違うことも有る。各々の株主がどういう保有動機なのか、優先順位を理解したうえで、多様な要望に対してバランスをとっていくことが大事だと思います。ただ、企業価値を上げることは共通の利益といえるでしょう。

−大塚家具と大塚一族の関係の将来像はどうあるべきだと思いますか。
大塚 こうであってほしいと思っても、そうなることではありません。関係を維持したくても日本では制度上、なかなか許されない。例えば相続などが起きれば、相続税を支払うために株式を売却せざるを得ない一族も出てきますから、持ち株比率を維持するのは簡単ではありません。創業家と会社の関係は、現実にはどんどん薄くなっていく。時間の経過とともに薄くなることを前提に、どうしたら会社の長期的な価値を高めていけるかを考えるしかないでしょう。
 ひとりの創業者が立ち上げた会社も、株式上場などでステークホルダーが増えていけば、基本的に社会的存在です。利害関係者もたくさんいて、無視することは不可能です。そうした関係をいかに良好に継続し、企業価値に収斂されるか、社会的価値をどうやって上げていくか、というところが一番の問題になってきます。

創業家が株主として経営に一定のコミットすることで、長期的な視点での経営が確保できるという考え方もあります。
大塚 それはそれでいいと思います。ただ、ファミリービジネスの場合、血縁関係が前提に鳴るのだとすれば、次の世代の人は一族の中にいるのか、という話にもなります。現実に私には子どもはおりません。たまたま血がつながっている優秀な子や養子にバトンを渡して、それが企業価値の向上に資するのであれば、それはあそれでハッピーですが、なかなかやろうと思ってできることではありません。
 当社の場合は、遠い先のことはわかりませんが、会社を受け継ぐことができる世代の血縁者というのは、いまの会社の中にはいないのです。「家業」というと、子どものときから身近に商売を見ていて、なんとなく身体に染み付いているわけで、私なども創業の時から近くで見ているわけですが、今、そういう環境にいた人は一族にはいないのです。そうなると、むしろ会社のことを知っているのはプロパー社員。長く大塚家具で働いて、一番、実態を見ているのは社員なわけです。

−いずれ社長の後継問題も出てきますね。
大塚 いま、取締役会でも議論していますが、経営層をどう育成していくかはビジネスモデルの変革と並んで重要な問題です。今回のビジネスモデルの改革が成功したとしても、世の中の変化によって、また10年後、20年後に同じ問題が起きるでしょう。そういう変化に直面してリーダーシップを取れる人がいないと困るわけです。社内で今までやってきた延長線上だけではなく、一歩引いた目線で見ることが出来る人たちを、層として育成していかないと、次の自体に対応できなくなってしまいます。そこが今の経営陣に求められていることではないかと思います。
 事情は会社によって異なりますが、会社が健全に生き延びていかないと、株を持っている創業家としても利益を守れません。そういう意味では、まずは企業価値を高めることだと思います。

−久美子社長が考えるビジネスモデルとは何でしょう。
大塚 創業精神である「いいものを安く」「生活の質をあげる物を、多くの人に使ってもらいたい」ということは、ずっと変わりません。しかし、どういう手段で暮らしの質を上げるかは、時代によって変わります。モノ自体が大事な時もあれば、暮らし方や生活の知恵といったソフトが大事な局面もある。ただ、その生活の質を大事にするという価値観は大塚家具のアイデンティティーです。それをどう提供するかという仕組みがビジネスモデルです。

−2月には新宿店を大きく改装されましたが、反応はどうですか。
大塚 担当者が付いてご案内しなくても店内を歩いていれば様々な情報が得られるように店作りを変えました。また、インテリアアクセサリーを置いて、お客様が頻繁にやってきても楽しむことができるようにしました。まずはお客様にお店に来ていただかなければ始まりません。改装の結果、来店客数は前年度と比較して今のところ4割増えてしまいます。短時間で気軽に変えるような仕組みを作りましたが、それをきっかけに、より大きなビジネスに結びつけていくことが重要になってきます。