訪日外国人の「爆買い」が再び?トランプ大統領は消費にプラスか。

隔月刊の時計専門雑誌「クロノス日本版」に連載しているコラムです。時計の動向などから景気を読むユニークな記事です。3月号(2月上旬発売)に書いた原稿です。
高級腕時計専門誌クロノス日本版[webChronos]→http://www.webchronos.net/

クロノス日本版 2017年 03 月号 [雑誌]

クロノス日本版 2017年 03 月号 [雑誌]

 日本政府観光局(JNTO)がまとめた推計によると、2016年の1年間に観光やビジネスなどで日本を出国した日本人は1711万6200人と、15年に比べて5・6%増加した。12年の1849万657人をピークに減少し続けていたが、4年ぶりに増加に転じた。年前半は為替がやや円高に振れたことや原油価格が安かったこともあって、航空券や旅行代金が安くなったことなどが影響したとみられる。また、企業収益が回復したことで、ビジネスマンの海外出張も多かった模様だ。
 一方で、訪日外国人、いわゆるインバウンドの増加も続いた。16年の年間の訪日外国人数は2403万9000人と前の年の1973万7409人に比べて21・8%も増加。過去最高を更新した。年間2000万人を突破したのは初めて。12月単月でも205万1000人と過去最高だった前の年の177万3130人を大きく上回った。
 国別で訪日客が最も多かったのは中国の637万3000人で、前の年に比べて27・6%も増えた。中国がトップになったのは2年連続。2位は韓国の509万300人で27・2%増、14年にトップだった台湾は3位となったが、416万7400人と前の年に比べて13・3%増えており、増加傾向が続いている。台湾の人口は2300万人ほどで、単純に計算すれば6人にひとりが日本にやって来たことになる。これに続いて、香港、米国、タイ、オーストリアの順になっている。
 訪日外国人が増え続けている背景には、円安の効果がある。現地通貨との比較で日本円が安くなれば、日本への旅行費用が安いだけでなく、日本国内の物価を安く感じる。実際、物価上昇が激しい中国やアジアの国々の国内で買うよりも、日本で買う方が安い「逆転現象」が起きている。これが極端に表れたのが数年前の「爆買い」で、日本の百貨店にやってきて高級ブランドを買いまくる中国人らの姿が目立った。
 15年の秋ごろから「爆買い」に一服感が出始め、16年は後半になると「爆買い」が終息したかに見えた。ところが、ここへ来て再び、「爆買い」が増える気配が見える。日本百貨店協会の集計によると、12月に全国の百貨店で免税手続きして買い物した「免税総売上高」は192億4000万円と1年前に比べて8・3%増えた。対象店舗数が違うなど直接比較できない面もあるが、実額ではピークだった15年4月の197億5000万円に次ぐ。免税手続きをした客の人数は28万件で、昨年7月を上回り過去最多となった。
 もうひとつ注目すべきなのが客あたりの免税売上高が6万9000円に上昇したこと。15年ごろには8万円を超えていたが、16年に入ると急速に低下、昨年7月には5万2000円まで低下していた。それが秋以降、急速に回復、11月に6万1000円となっていた。
 「爆買い」復活の予兆とみることもできるが、明らかにきっかけは円安が進んだこと。米国大統領選挙でドナルド・トランプ氏が当選したことで、一気にドル高となり、円安が進んだ。この結果、アジアからの訪日客にとって日本での買い物が再び「割安」になったのだろう。
 もっとも、単価がピークだった15年は、百貨店での免税売り上げの「売れ筋」は、高級ブランド品だったが、今のトップは化粧品。それも資生堂など日本ブランドの化粧品が売れているという。単に安いというだけでなく、日本の良いものを買いたいという旅行者の心理が表れているとみることもできる。高級時計の売り上げにもプラスに働くかもしれない。
 それでは、円安につながったトランプ大統領の誕生は、日本の消費、とくに高級品の売れ行きにプラスになるのだろうか。手離しで喜ぶわけには行かない面もありそうだ。特に経済のブロック化や移民の排斥などにつながれば、国際的な人の移動が減る可能性もある。出国日本人や訪日外国人の増加にブレーキがかかるようなことがあれば、せっかくの消費に水を差される可能性もある。