現代ビジネスに7月19日にアップされた原稿です。オリジナルページ→http://gendai.ismedia.jp/articles/-/52334
さらに進展、高額報酬
「日本の経営者は薄給」という“常識”は完全に過去のものになったと言っていいだろう。3月期決算企業の株主総会が6月末までに終わり、1億円以上の年俸を得た経営者の情報が有価証券報告書で開示された。
東京商工リサーチが6月30日時点で有価証券報告書が出ていた2426社を対象に調べたところ、報酬が1億円以上だった役員は457人。前年の414人に比べて43人増と、10%も増えた。もちろん、過去最多の人数である。
1億円以上の報酬を得た役員がいた会社は221社と前の年に比べて10社増だったので、1億円以上報酬の役員がいる会社で人数が増えたことを示している。
役員報酬額の最高はソフトバンクグループのニケシュ・アローラ元副社長で、103億4600万円と、前年の64億7800万円を上回った。この額は1億円以上の報酬開示が始まった2010年3月期以降、最高額で100億円を超えたのも初めて。
アローラ氏は2016年6月に退任したが、有価証券報告書によると、最も大きかったのが「退職費用」で88億4700万円。そのうち50億円は固定だったが、残りはソフトバンクの株価によって増減する契約になっていた。そのうち今年6月の株価で金額が決まった分が38億3000万円に達した。さらに2018年3月の株価で決まる報酬分も存在しているという。
さらに、有価証券報告書によると、ソフトバンクは、アローラ氏に付与していたソフトバンク関連企業の株式を107億円で買い取っている。
アローラ氏は2016年3月期までの2年間で、契約金などを含めて合計約246億円の報酬を得ていた。2017年3月期の支払い分を加えると、3年間の報酬額は約349億円に上る。
アローラ氏は米グーグルのCBO(最高事業責任者)を経て2014年にソフトバンクの孫正義社長の後継候補として移籍、副社長を1年余り務めたものの、孫氏が社長続投を決めたために、退任した。短期間で巨額の報酬が支払われたことは、大きな話題を呼んだ。
上位5人は外国人
ちなみに、孫正義氏が会社から受け取ったのは基本報酬の1億1700万円と賞与の2200万円で、アローラ氏はこれをはるかに上回る金額を得ていた。また、ソフトバンク取締役のロナルド・フィッシャー氏も24億2700万円の報酬を得て、個人別ではアローラ氏に次ぐ2位の高額報酬受領者になった。
3番はソニーで映画音楽事業を担当するマイケル・リントン執行役が株式報酬などを含んで11億4000万円。4位はおなじみの日産自動車のカルロス・ゴーン会長が10億9800万円となった。
ゴーン氏に次ぐ5位は武田薬品工業のクリストフ・ウエバー社長で、10億4800万円だった。上位5人はいずれも外国人で、いわば欧米の経営者の報酬の「相場」に引っ張られる形で高額報酬を支払っているともいえる。
では、日本人で最高額を得た社長は誰だろうか。
9億1400万円を得たソニーの平井一夫社長が6位で日本人経営者トップとなった。業績不振に喘いでいたソニーをどん底から立て直した。前の年は7億9400万円だったので、15%アップということになる。
そのほか、日本人経営者で高額報酬上位の人は、創業者トップが目を引く。
取締役は振れの激しい職業に
一方、東京商工リサーチによると、1社で1億円以上の役員が複数存在する企業も大きく増えた。1社あたりの個別開示人数は、最も多かったのが三菱電機で、22人(前年は23人)。2014年3月期以降、4年連続でトップとなった。
次いで、伊藤忠商事が11人、ファナックやソニー、パナソニックがそれぞれ10人、東京エレクトロンが9人などとなった。7人が1億円お超えた企業は、野村ホールディングスや大和証券グループ本社、日立製作所、ダイワハウス工業、三菱UFJフィナンシャル・グループなど28社にのぼり、かなりの会社で役員年俸1億円以上が定着してきたことがわかる。
ちなみに、ソニーが前年の3人から10人へと大きく増えたほか、経営体制を刷新したパナソニックが1人から10人へと急増した。
東京商工リサーチは面白い分析もしている。前の年に1億円以上だった414人のうち、今年度も1億円以上だった人は311人。逆に言えば103人は退職したり減額されて1億円以下になったことを示している。
一方で、新規に1億円以上として公開された人は146人にのぼるという。役員任期が1年になった企業が多いうえ、報酬も業績に応じて増減するなど、かなり取締役が「振れの激しい」職業になってきている様子が浮かびあがる。
報酬の個別開示は、リーマンショック後に欧州で金融機関の高額報酬が批判にさらされたのをきっかけに強化された。グローバル規制に平仄を合わせる中で日本でも金融庁が導入に踏み切った。
2009年に制度導入を決めた際には、1億円ならば開示対象になる企業はほとんどない、という判断だったとされるが、実際には都市銀行などにも1億円の報酬を得ている役員がいた。
当初は開示制度に対する批判もあったが、結果的に、開示をしたうえで高額報酬をもらうことを躊躇する企業経営者が減少。結果的に高額報酬が広がってきたとみることもできる。