コロナで経済大打撃のはずが過去最高税収、で消費減税? 財政出動?  給付金等が回り回って

現代ビジネスに7月9日に掲載された拙稿です。ぜひご一読ください。オリジナルページ→

https://gendai.ismedia.jp/articles/-/85004

予想に反して

新型コロナウイルスの蔓延で経済が大打撃を受けた2020年度が、予想に反して過去最高の税収額を記録したことが分かった。

飲食など影響を受けた業種もあった一方で、「巣篭もり需要や米中経済の回復を背景に法人税収が上振れ」(時事通信)したことなどが理由に挙げられているが、2019年10月から消費増税の効果なども大きく、残念ながら「景気回復で税収が増えている」と単純に喜ぶことはできそうにない。

財務省が7月5日に発表した「令和2年度決算概要(見込み)」などによると、国の一般会計の税収は、前年度より2兆3801億円多い60兆8216億円となり、2018年度以来2年ぶりに過去最高を更新した。

消費税の税収が前年度より2兆6187億円も増加。20兆9714億円と過去最高を記録したが、これは消費税率10%が初めて年間でフルに寄与したことが大きい。

法人税収は4375億円増の11兆2346億円となった。昨年末時点の予想より3兆円以上も上ブレしたが、税収額としては消費税に初めて抜かれた。所得税も前年度より191億円多い19兆1898億円だった。

だからといって景気回復なのか

新型コロナでの経済への打撃は深刻だと予想されていただけに、税収が最高を更新したのは予想外とも言えるが、決して景気回復を単純に示しているわけではない。新型コロナ対策として注ぎ込まれた巨額の助成金などが、回り回って税収増につながっている効果が大きいように思われる。

まず、所得税。税収が増えたということは、所得が増えたということだが、企業で働く人たちが、給与が大幅に増えた実感はないだろう。また個人で事業をやっている人たちが、自分の給与を増やしたケースも少ないのではないか。つまり、所得が増えた実感がある人は乏しいだろう。

にもかかわらず所得が増えているのは、個人への特別定額給付金や事業者への持続化給付金、各種の休業補償金などの収入が増えているのではないか。それらが税務申告されているとも思えないが、いずれにせよ政府支出が家計に回り、結果的に所得税が増えたと言えるのではないか。あるいは、土地や株式など資産価格が上昇したことで、その売却収入が所得増につながっていたのかもしれない。

企業の法人税が予想を大幅に上回ったのは、家電業界など一部の業界で予想以上に需要が伸びたことも要因には違いない。

雇用調整助成金の効果

だが、一方で、雇用を維持するために政府が巨額の雇用調整助成金を支出したことで、本来企業が負担してきた人件費が「軽く」なった可能性もある。つまり、企業のコストを政府が肩代わりした結果、企業収益が予想ほど悪化せず、結果的に法人税収増につながったと見ることもできそうだ。なにせ、2020年度末までに累計で3兆1555億円も支出されているのだ。

企業経営者に聞くと、前年度は緊急事態宣言の発出で、営業活動などができなかったことで経費が大幅に減少したという。また、テレワークが広がったことで、オフィスの光熱費などが驚くほど削減できたという声も多い。こうした経費の激減によって、当初は赤字を見込んだ企業が、結果的に黒字決算になるところも少なくなかった。

このように企業収益が予想以上に落ち込まなかったことで、企業は人員に手をつけるリストラなどに踏み切らずに済んでおり、結果的に、合計額で見た個人の所得は減らなかったということだろう。

もちろん、これは合計の話であって、外食や宿泊など大打撃を被った業界で働いていた非正規雇用の人など、収入が激減している人も少なからずいる。新型コロナによって深刻な格差が生じているのは明らかだ。

だが、そうした全体として見た所得の維持が、消費に結びついていたことが消費税収の増加からも分かる。消費税収が増えたのは前述の通り、税率変更の影響が大きいのだが、それでも単純計算で逆算して消費額を試算すれば、若干ながら消費自体は伸びていることが分かる。ただし消費増税前の2018年度の消費額には及ばなかったと見られる。

総務省が発表する「家計調査」で消費支出の推移を見ても、定額給付金が支払われた2020年5月から夏にかけて実収入が大幅に増加。それにつれて消費支出も大幅に伸びていた。政府の様々な助成金が所得を押し上げ、消費も増やしたことで、回り回って結果的に税収も増えているわけだ。

つまり、2020年度に記録した最高の税収額というのは多分にイレギュラーな要素が大きい。税率引き上げと様々な頃な対策助成金の効果だ。

さて、2021年度以降

問題は、こうした対策が切れていく2021年度以降の景気の「実態」がどうなるか。そして税収増が続くかどうかである。新型コロナ対策費の巨額支出によって、いわゆる国の借金は1200兆円を突破した。いずれ、この借金返済に向けた増税などが議論になってくるだろう。そうなった時に景気回復を維持できるのかどうか。

まずは、ワクチン接種の進展で、経済活動が徐々に再開されることが期待される。本格的に「人流」の増加が認められるようになっていく中で、経済を大きく伸ばす「起爆剤」をどのタイミングで打つか。「GoToキャンペーン」のような政府支出でそれを行うのか。さもなくば、期限を区切った消費税減税に踏み切るのか。

当初予想された税収の大幅減少が起きたならば、国は手足を縛られ、財政出動も減税もできなくなるところだったが、今回明らかになった税収状況からすれば、思い切って消費を回復させるための消費減税などに打って出る余地が生まれている。

消費減税は野党が要望していることもあり、秋の総選挙をにらんで、もしかすると政権浮揚の起死回生の一打として現実味を帯びてくるかもしれない。