東芝3分割に海外投資家が反対意見、臨時株主総会で挫折の瀬戸際 迷走の陰に原子力政策と国の無責任

現代ビジネスに11月26日に掲載された拙稿です。ぜひご一読ください。オリジナルページ→

https://gendai.ismedia.jp/articles/-/89683

批判されそうな3分割案

東芝の綱川智社長が11月12日に発表した東芝を3つの会社に分割する再編案について、海外投資家から反対する声が上がり始めた。

東芝株の7%程度を保有するシンガポールの資産運用会社「3Dインベストメント・パートナーズ」が11月24日に、3分割計画に反対を表明する書簡を公開。会社が提案する3分割案では「本質的な課題を解決しない」と批判している。今後、他の大株主が3分割案に対してどんな姿勢を見せるのか。状況は再び混沌としてきた。

東芝の発表では、本体からインフラ事業とデバイス事業の2つを分離分割し、それぞれは2023年度の下期に上場させる。残る「東芝本体」は東芝テックなどの株式保有や、「東芝」ブランドの管理などを行う一方、グループが抱える負債は引き受ける。保有するキオクシアホールディングスの株式は早期に売却して、その利益を東芝の株主に還元するとしている。

具体的な分割手法などについての詳細は不明で、分離する2社の株主構成がどうなるかも分からない。だが、分社することによる利益は海外投資家など既存株主に還元する一方で、上場させることによって新たな出資者が増え、現状の株主の支配権は薄れる可能性が高いとみられる。

大株主として存在感を強めている海外ファンドなど「モノ言う株主」がこの提案に対してどんな対応をするのかが注目されるが、3Dインベストメントの反対表明で、海外株主が一気に反対に流れる可能性もある。既存の株主の利益にならないという見方が強まれば、臨時株主総会で3分割案が否決され、会社側提案が空振りに終わる可能性も出てきた。

「モノ言う株主」に返り討ち

東芝は、粉飾決算原子力事業の損失処理などで、2017年3月期に債務超過に転落。存続が危ぶまれたが、2017年末に7000億円近い巨額増資を行なって、とりあえず危機を脱した。この増資を引き受けたのが、海外ファンドを中心とする「モノ言う株主」で、その後、東芝の経営陣への参加などを巡り、会社側と対立していた。

2020年の株主総会では、当時社長だった車谷暢昭氏が、こうした「モノ言う株主」の影響力を排除しようと株主総会運営を恣意的に行ったとして、株主から調査要求が臨時株主総会で可決。会社側と経産省が「連携」して海外株主の投票行動に影響を与えようとしていたとの疑惑が浮上した。

一方、車谷氏がMBOによって「モノ言う株主」の排除を狙ったことも表面化。批判を浴びた車谷氏は4月に辞任に追い込まれた。さらに取締役会議長だった永山治・中外製薬元社長も6月総会で再任案が否決され、現在、議長は綱川社長が兼務する「空席」状態になっている。

当初、会社側は、2021年末までに臨時株主総会を開いて、取締役会議長など追加の取締役を選任し、新体制を発足させる意向を示していた。ところが、新体制を決める前に3分割案を発表した。綱川社長は、株主の利益を強調しているものの、「なぜ3分割が、株主利益につながるのか、その説明が不十分」(証券アナリスト)という声も出ている。

「経済安全保障」がらみ

臨時株主総会を開いて追加の取締役を選んだ新体制が発足すれば、海外投資家の発言力が強まるのは必至。そのため、新体制発足前に現綱川体制で3分割を決めてしまいたいとの意向が明らかに働いている。どうやら、インフラ事業とデバイス事業への海外投資家の影響力を低下させることを狙っているのではないか、と見られている。

原子力を含むインフラ事業は、政府が強化している「経済安全保障」にモロに関わるとして、分離独立させる案が政府内でもくすぶってきた。経産省は表向き、今回の3分割案には関与していない姿勢を示しているが、原子力事業の行方は政府として最大の関心事だ。原子力事業が投資ファンドなど海外投資家の支配下に入ることは認められないとする意見も永田町には根強い。

今後、海外株主は続々と3分割案に賛否の姿勢を示すとみられるが、株主総会で3分割案を通すには、海外株主の多くに賛成に回ってもらう必要がある。原子力を手放すことで、既存株主にどれだけ利益を還元するかなど、具体的な利益分配策を明らかにしないと、反対に回る株主が増える可能性がある。

政府は、今後の原子力政策について明確な姿勢を示さずにおり、原子力発電所の新設・更新(リプレイス)についても方針を明らかにしていない。そんな中で、東芝が抱える原子力事業や、東京電力など電力会社が持つ原発を今後どう管理していくのかも不透明なままだ。

東芝は長年にわたり、国や経産省の方針を肩代わりする格好で原子力事業に邁進してきた。米原子力のウェスティングハウスを買収させたのも、リーマンショック東日本大震災後の危機を救ったのも経産省主導だった。

現在のボロボロになった東芝の現状の責任の一端は経産省にある。まずは、今後の原子力政策をどうするのかを明確に示し、民間が持つ原子力関連事業を今後どう再編するのかを明確に示す責任が、政府・経産省にはあるだろう。