「新型肺炎」経済対策「何でもあり」で「消費減税」の可能性

新潮社フォーサイトに3月3日にアップされた拙稿です。是非お読みください。

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https://www.fsight.jp/articles/-/46595

 安倍晋三首相は2月29日の夕方、緊急の記者会見を開き、新型コロナウイルスの感染拡大防止に向けた政府の取り組みなどを説明した。

 2月27日夕に、全国の小中高校に対して3月2日から春休みまで臨時休校するよう要請したことについて、

 「何よりも子供たちの健康、安全を第一に、多くの子供たちや教職員が日常的に長時間集まる、そして、同じ空間を共にすることによる感染リスクに備えなければならない」

 とし、国民に理解を求めた。

起死回生を狙った会見

 学校の一斉休校については、安倍内閣に批判的なメディアや野党から批判の声が上がっている。休校することによる働く保護者の負担急増や、経済的な損失が指摘され、文部科学省などの慎重論を退けて「政治決断」した安倍首相が「強権発動」したからだ。

 しかしむしろ、批判の集中砲火を見越したうえでの、起死回生を狙った会見だったとみていい。

 というのも、「桜を見る会」の問題に加え、黒川弘務・東京高等検察庁検事長の、法令解釈を変更しての定年延長問題が、ジワジワと安倍政権を追い詰めていた。

 実際、安倍政権寄りとみられている『産経新聞』と『FNN』(フジテレビ)が2月22、23日に実施した世論調査では、内閣支持率が8.4ポイントも急落。支持率が36.2%、不支持率が46.7%と一気に逆転。これにはさすがに与党内でも驚きの声が上がった。

 新型コロナへの政府対応について「評価しない」とする回答が45.3%に及び、「評価する」の46.3%に迫るなど、「後手後手」の印象が強まっていた安倍内閣の新型コロナ対策の不手際さが、内閣支持率に影を落とし始めていたことは間違いない。

 特に、加藤勝信厚生労働相が、2月25日に打ち出した「新型コロナウイルス感染症対策の基本方針」が、手洗い・うがいの実施や、テレワーク・時差通勤の要請などにとどまり、スポーツ、文化行事の開催については、

 「全国一律の自粛要請を行うものではない」

 としたことから、ネット上などで批判が噴出していた。

 それだけに、さらなる批判を承知で安倍首相が「強権発動」したのは、ウイルスの感染経路が分からず、重症化のプロセスもみえない中で、このまま今後の対策が「後手に回っている」と国民に判断されれば内閣の死活問題になりかねない、との危機感を覚えたからだろう。

 政権の行方も考えて行った判断とはいえ、「前のめり」と批判するのは難しい。一斉休校などへの批判は早晩、沈静化していくに違いない。

政策的には「禁じ手」

 むしろ29日の会見で注目すべきは、「新型コロナ対策」を理由に、「何でもあり」の景気対策に道を開いたことだ。

 学校の一斉休校に伴って保護者が休職した場合の所得減に、「新しい助成金制度を創設」し、

 「正規・非正規を問わず、しっかりと手当てしてまいります」

 と明言している。また、

 「業種に限ることなく雇用調整助成金を活用し、特例的に1月まで遡って支援を実施します」

 とも述べた。

 さらに、中小・小規模事業者の強力な資金繰り支援なども行うとした。

 政府が個人や企業に直接、所得補填するのは政策的には「禁じ手」で、平時ならば「ばら蒔き」との批判を受けかねない。

 今後、制度や法律を作る段階で、どこまでを新型コロナによる影響とするかなど、難題が出てくるが、それも「非常時」ということで、「大盤振る舞い」されることになるのだろうか。

 実のところ、新型コロナ対策を「理由」にできることは、深刻な景気減速に直面しつつあった安倍内閣にとっては、救いの船とも言える。

 2019年10-12月期の実質GDP国内総生産)の成長率は、年率換算でマイナス6.3%と大幅なマイナス成長になった。前の消費増税直後である2014年4-6月期はマイナス7.1%、東日本大震災の影響が出た2011年1-3月期はマイナス6.9%だったので、これに次ぐ激震に見舞われたことになる。

 もちろんこの段階では新型コロナの影響は出ていない。2019年10月からの消費増税に伴う家計消費支出の大幅な減少が響いた。

 そうでなくても弱い国内消費が、消費増税によって一気に悪化した格好になったのである。

 そこに、さらに新型コロナによる経済停滞が加われば、国内消費は「底が抜ける」。消費を下支えする「唯一の期待」だったインバウンド消費が激減することは火を見るよりも明らかだ。

目も当てられない悪化ぶり

 たとえば、日本百貨店協会が発表した1月の全国百貨店売上高は、前年同月比3.1%の減少となったが、それでも春節による中国人訪日旅行客の増加で、免税売上高は20.9%も増加した。1月の全体の売上高は4703億円で、そのうち免税売上高が316億円なので、6.7%を占めたことになる。もちろん免税対象品以外も買われているので、インバウンド消費の効果は大きい。

 逆に言えば、免税売上高が2割も増える中で、全体は3.1%も減ったわけで、昨年10月の増税から4カ月たってもいかに国内消費が弱いかということが分かる。

 また、春節期間(1月24日〜30日)の免税売上高は2ケタのマイナスだった百貨店が目立ったと報道されたが、それでも1月全体のインバウンド依存は大きかったわけだ。何せ、1月の中国からの訪日旅行客は92万4800人と、前年同月に比べて22.6%も増えている。

 ちなみに、春節後の2月1日まで、日本政府が武漢を含む湖北省などからの旅行者受け入れを停止せず、その後も中国からの旅行者を規制していないことにも批判が集中している。

 だが、仮に春節前に中国からの旅行客をブロックしていたら、消費は目も当てられない悪化ぶりになっていたことは容易に想像が付く。

 なお、昨年は2月に春節があったので、対前年同月比では2月のインバウンド消費が落ち込むのはもちろん、これに新型コロナ問題が加わったことで激減することになった。百貨店大手4社が3月2日に発表した2月の売上高速報は、大丸松坂屋百貨店が21.8%減、三越伊勢丹が15.3%減など、軒並み2ケタのマイナスになった。

 また、様々な行事が中止になっている3月は、訪日客が激減していることもあってさらに消費が落ち込む懸念が強い。

乗数効果が下がる経済対策

 インバウンド消費で最も影響が大きいのは、4月だ。ここ数年、中国などアジア各国の人たちの間で、日本の桜を見るツアーが人気を博してきた。4月の訪日客は、実は春節の月よりも多い。

 たとえば2019年の場合、春節の2月は260万人だったが、4月は292万人。多くの国が夏休みの7月(2019年は299万人)に次いで、4月がインバウンドの稼ぎ時なのである。

 現状では、4月の旅行計画を組むのは難しいだろうし、今年の「桜の時期」は例年になく外国人観光客が少なくなるに違いない。

 2019年の訪日外国人旅行消費額は、観光庁の推計によると4兆8113億円。うち36.8%に当たる1兆7718億円が、中国からの旅行者だ。まだ訪日客も増えてインバウンド効果もあった今年1月はともかく、2月以降の数値では、確実にインバウンド効果が減少しているはずだ。しかも、いまや訪日客減は中国からだけではなく世界傾向であるため、仮に全体の旅行消費が半減したとすると、2019年実績数値から単純計算すれば、2月からの3カ月間で6000億円の消費が消えることになる。

 こうした消費の減少で中小企業の収入が激減し、資金繰りが悪化した場合、政府がそれを支援する、というのが今回の会見で安倍首相が示した方針だ。これを融資で支援するのであれば通常の危機対応でもあるので、それほどの混乱はないかもしれない。

 だが、収入の減少や雇用の確保に向けた人件費の負担を政府が行うことになれば、その財政負担は大きい。それでも考えられる限りの支援を安倍首相は行うつもりに違いない。

 経済が猛烈な勢いで縮小しかねない時に政府が財政支出をするのは、伝統的な経済対策だ。しかし、土木工事を中心とする公共事業では経済を底上げする力が弱くなってきていることは明らかだ。政府の支出額以上に経済効果が大きくなる「乗数効果」が下がっているのである。

 経済全体のサービス化が進み、消費がGDPの55%近くを占める中で、土木や建築などの工事に従事する人の数も減り、全国的に消費を押し上げることが難しくなっているのである。

 今回、「非常事態」ということで、消費産業や働く個人に直接、国の財政支援が行われる仕組みができれば、予想外に景気下支えの効果を引き出すことができるかもしれない。

 さらに新型コロナが終息した直後からの景気の立ち上げを力強くするためには、本格的な消費支援策を打ち出す必要が出てくる。

 もっとも効果があるのは、時限的な「消費税の減税」だろう。

 れいわ新選組代表の山本太郎氏が「消費税率ゼロ」を主張したり、立憲民主党などとの野党連携を想定して消費税率5%への引き下げを議論するなど、野党から出ていた「奇抜な案」は実現不可能とみられていたが、「非常時」に乗じれば、安倍政権が実行に移すことも可能になるはずだ。

独立社外取締役の役割とは何か アスクルで始まった新たな挑戦

ビジネス情報誌「エルネオス」2020年3月号(3月1日発行)『硬派ジャーナリスト磯山友幸の《生きてる経済解読》』に掲載された拙稿です。是非お読みください。

 

エルネオス (ELNEOS) 2020年3月号 (2020-03-01) [雑誌]
 

 

支配株主のヤフー(現・Zホールディングス)との対立が話題になったアスクルが、三月十三日に臨時株主総会を開く。昨年八月の定時株主総会で、現職の社長だった岩田彰一郎氏の再任を議決権の過半を事実上握っている「親会社」のヤフーが拒否、同時に独立社外取締役三人もクビにした。意にそぐわない岩田氏を社長候補に推薦したのが理由とみられた。以来、同社には社外取締役がいない状態が続いてきた。
 同社では、社長など取締役候補の選任は、独立社外取締役らによる「指名・報酬委員会」が行うことになっている。また、事業売却など重要な資産の処分についても独立役員による委員会が審査し、親会社以外の少数株主の利益に配慮することになっている。
 議決権の過半数を抑えた株主が会社を自由にできるように思われがちだが、親も子も上場企業の場合、事情が違う。確かに、日本の会社法では資本の論理が優先され、親会社はオールマイティーのように振る舞うことも可能だ。だが、国際的には、子会社も上場して株主がいるケースでは、親会社以外の株主、いわゆる少数株主の利益を保護することが当たり前になっている。日本も経済産業省が中心となって、少数株主保護に関するガイドラインなどをまとめている。そんな最中に、ヤフー・アスクル問題が起きたのだ。
 アスクルは不在になった独立社外取締役を選任すべく、暫定の「指名・報酬委員会」を設置、委員長についた國廣正弁護士や委員の落合誠一弁護士らが候補者の選定を進めてきた。
 候補者に選ばれたのは、弁護士で多くの企業の社外取締役を務めてきた市毛由美子氏、医薬品のインターネット販売会社ケンコーコム(現・楽天)を創業し代表を務めた後藤玄利氏、麗澤大学教授でコーポレートガバナンスに詳しい高巌氏、石川島播磨重工業(現・IHI)で副社長を務めた塚原一男氏の四人。「アスクル側でもヤフー側でもなく、市場のため、アスクル企業価値を上げるために相応しい候補者を探す」と國廣弁護士が宣言。アスクル、ヤフーの両社もそれを受け入れたといい、候補者選びに両社は関与しなかったという。

ユニークな社外取締役選任手法

 四人の候補は、アスクルの経営陣やZホールディングスの経営陣、同じく大株主の事務機器大手プラスの経営陣と対話を重ねてきたという。さらに昨年の株主総会で独立社外取締役としての再任を拒否された斉藤惇・日本取引所グループ前CEO(最高経営責任者)らとも意見交換した、という。
 臨時株主総会の独立社外取締役の選任に当たってはユニークな手法が取られる。選任議案の可否を問う前に、候補者四人に抱負を語らせた上で、株主からの質問に答える場を作るというのだ。すでに、候補者四人の「抱負文」は公表されている。普通の会社の株主総会では、取締役候補者は選ばれてから紹介されるのが一般的で、選任前に株主の質問に答えるのは極めて異例だ。
 國廣弁護士はこうした手法を「アスクル・モデル」と呼び、委員の落合弁護士も「相当なインパクトを与えるものと思う」と述べ、独立社外取締役を選任する場合の方法として、他社にも広がることを期待するとしている。
 さらに常設されることになる「指名・報酬委員会」にも規定を設ける方向だという。そこには以下の八項目が掲げられている。
一、取締役会の常設の諮問・勧告機関とする
二、構成員は独立社外取締役全員とCEOとする
三、CEO、取締役、執行役員などの選解任を取締役会に答申する
四、CEO、取締役、執行役員などの個別報酬を答申する
五、取締役会からの諮問事項以外でも勧告できる
六、取締役会は勧告を尊重する
七、外部の専門家を会社の費用で選任できる
八、勧告等を行った事項について株主総会等において意見を表明できる
 つまり、「指名・報酬委員会」で独立社外取締役が中心となって決めたCEO人事については、それを取締役会は尊重しなければならず、実質親会社のZホールディングスの意向だけで決定することはない、としているわけだ。委員会の勧告が無視された場合には、八番目にある株主総会で勧告内容を公表する「対抗手段」を設けた。もちろん、それでも「資本の論理」を押し通して、CEO候補や社外取締役を昨年八月と同様、クビにすることができないわけではない。

親子上場のあり方を問う

 欧米では、こうした親会社株主と子会社少数株主の利益相反が起きることを想定、上場企業を子会社にする場合は、一〇〇%株式を購入して、上場廃止にするケースがほとんど。少数株主から利益侵害だとして訴えられる可能性があるからでもある。日本では親子上場が多く存在するが、前述の通り、少数株主の権利についてはこれまでほとんど議論されてこなかった。
 アスクルとZホールディングスの関係は複雑だ。旧ヤフーがアスクルを実質子会社化する際、両社の間で契約が結ばれ、実質子会社化してもアスクルの経営の独立性を維持することや、取締役派遣は二人までと申し合わせている。数の論理だけで取締役会を支配しようとした場合、Zホールディングスが保有するアスクル株を買い戻すことができる規定も存在する。つまり、子会社であっても完全には支配されない、という契約になっているのだ。
 臨時株主総会では四人の独立社外取締役が選任されると、現在の五人の取締役に加えて九人になる。吉岡晃社長兼CEO、吉田仁COO(最高執行責任者)、木村美代子COOのほか、Zホールディングスから派遣されている輿水宏哲氏と、Zホールディングスの取締役専務執行役員を務める小澤隆生氏の五人と、独立社外取締役四人だ。小澤氏も扱いは社外取締役なので、過半が社外取締役の会社という形になる。
 選任される独立社外取締役は今後、Zホールディングスやプラスの経営陣と経営方針などについて徹底して議論するという。アスクル企業価値を高めることを主眼とすれば、親会社・子会社双方の株主の利益につながるというのだ。「アスクル・モデル」が機能するかどうかは、日本の親子上場のあり方を問い直すきっかけにもなりそうだ。

 

新型コロナ「封じ込め」失敗…日本は間も無く“大不況”に襲われる  インバウンド期待の代償は大きすぎた

 現代ビジネスに2月27日に掲載された拙稿です。是非お読みください。オリジナルページ→

https://gendai.ismedia.jp/articles/-/70669

武漢封鎖から1週間遅れで

新型コロナウイルスへの感染が日本国内でも広がっている。

渡航歴がなく、1次感染者との濃厚接触も確認できない人の感染が各地で報告されている。またクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」から陰性だと判断されて下船した乗客の中から、帰宅後に感染が確認されるケースも相次いでおり、人から人への感染が明らかになっている。

事実上「封じ込め」は失敗に終わったとみていいだろう。

安倍晋三首相が、中国・武漢市を含む湖北省に滞在歴のある外国人に対して入国拒否を表明したのは1月31日の夕方。2月1日午前零時から実施された。武漢市当局が公共交通の遮断に乗り出し、1000万人都市の封鎖に踏み切った1月23日から1週間が経過していた。

この間、中国からは日本に大量の訪日旅行客がやってきた。JNTO(日本政府観光局)が2月19日に発表した推計によると1月の中国からの訪日客は92万4800人。前年1月に比べて22.6%も増えた。中国の新年に当たる春節旧正月)の休みが、昨年は2月だったものが今年は1月になったこともあり、大きく増加した。

湖北省からの入国拒否を日本政府が決めたのが1月31日なのは、明らかにこの春節休みが終わるのを待っていたとみられる。春節前に入国禁止などの措置を取れば、飛行機や宿泊ホテルのキャンセルが相次ぎ、経済的な損失が生じる。

決定はできるだけ先送りし、混乱を小さくするという、いつもの官僚の姿勢が、今回ははっきりと裏目に出たと言えるだろう。クルーズ船の乗客は隔離する一方で、武漢を含む中国からの入国は通常通りに受け入れるという、チグハグな対応を続けたことになる。

2月1日に湖北省滞在外国人の入国拒否に踏み切った段階では、米国やシンガポール、オーストラリアなどが中国全土からの入国を拒否していた。日本政府は1月13日になって、ようやく浙江省に滞在歴のある外国人も入国拒否の対象に加えたが、2月25日現在、それ以上、対象地域を拡大しておらず、後手後手に回っている感は否めない。

その間にも、日本での感染者は増え続けてきたのである。

高リスク国・日本に誰が行くものか

そんな日本を「高リスク国」とみなして、日本人の入国制限を始めた国も多い。2月に入って早々、太平洋の島国ミクロネシア連邦やツバル、サモアキリバスなどが日本人を含む外国人の入国を拒否した。小さな島国という隔離されたエリアにコロナウイルスが持ち込まれれば、国の壊滅に結びつきかねないという危機感がある。

こうした動きはさらに広がり、インドネシアが日本人の入国を拒否したほか、イスラエルも日本や韓国に滞在した自国民以外の外国人の入国を禁止する措置を発表した。香港も、感染者が急増している韓国人の香港入境を禁止、日本人については禁止にはしないものの、14日間隔離する方針を打ち出した。

日本が手をこまねいている間に、日本人や韓国人も、中国人と同様のリスクとみなされ、遮断され始めているのだ。

政府は2月25日になって対策の「基本方針」を発表したが、症状の軽い人に自宅療養を求めるとした程度で、大型イベントの開催可否などについては自治体の判断に委ねるなど、ここでも後手に回っている印象で、強い批判を浴びた。

一方で民間ではJリーグが試合の延期を決めたほか、感染者が出た電通は本社の全社員を自宅勤務に切り替えるなど独自の対応が広がり、経済への影響が現実のものになり始めている。

1月の訪日客は全体では1.1%減となったが、これは日本との関係が冷え込んでいる韓国からの訪日客が59.4%減と大きく落ち込んだことが主因。中国の22.6%増のほか、香港も42.2%増、台湾19.0%増、シンガポール33.2%増など、春節休暇での訪日客が大きく増えた。

もっとも2月は、昨年は春節だった反動もあるため、訪日客数は激減するとみられる。コロナウイルスへの警戒から旅行を取りやめる動きも相次いでおり、落ち込みは相当大きくなるだろう。

もはや消費は絶望的に

これによってインバウンド消費も激減、それでなくても弱い日本の消費を直撃することになりそうだ。

日本百貨店協会が発表した1月の全国百貨店売上高は前年同月比3.1%減と大きく落ち込んだ。消費増税した昨年10月以降、4カ月連続のマイナスだが、春節があったため、訪日客による免税手続きをした売上高は20.9%像と大きく増えた。1月はインバウンド消費はむしろ大きくプラスだったわけで、いかに国内消費が弱いかを示している。

2月は春節効果が無くなることに加え、新型コロナウイルス蔓延による旅行自粛が鮮明になることでの訪日客消費の激減も予想される。

2019年10−12月期のGDP国内総生産)は年率換算で6.3%減という大幅な悪化を記録、エコノミストなど専門家の間に衝撃が走った。前の3カ月と比較するため、2020年1-3月期は持ち直すという見方が支配的だが、国内消費が回復に向かうどころか、さらに縮小する気配で、2四半期連続のマイナスになる可能性もある。

政府は補正予算に加え、2020年度本予算でも景気対策費を大きく積み増しており、何とか景気の減速を食い止めようと必死だが、新型コロナ問題が早期に終息しそうにないだけに、本格的な景気減退局面入りは避けられそうにない。

 

株主に大見得「日産新社長」は「脱ルノー」「業績改善」できるか

新潮社フォーサイトに2月21日に掲載された拙稿です。オリジナルページ→https://www.fsight.jp/articles/-/46553

日産自動車」の新体制がようやく正式に動き出した。2019年12月に代表執行役社長兼CEO(最高経営責任者)に就任した内田誠氏ら4人が、2月18日に開かれた臨時株主総会で取締役に選任されたのだ。

 新たに取締役に選ばれたのは、内田氏のほか、COO(最高執行責任者)のアシュワニ・グプタ氏と生産部門などを統括する坂本秀行副社長、大株主の仏「ルノー」で筆頭独立社外取締役を務めるピエール・フルーリォ氏。役員報酬の不正受領が発覚して昨年9月に社長兼CEOを辞任した西川廣人氏と、その後任としてCEO代行を務めた山内康裕氏が同日付で取締役を退いた。

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「在宅勤務に切り替え」がごく一部にしか広がらない根本原因  新型コロナ渦でも「通勤地獄」は不変

プレジデントオンラインに連載されている『イソヤマの眼』に2月21日に掲載されました。是非お読みください→https://president.jp/articles/-/33142

シンガポールの危機感は日本以上

「日本はのんびりしていますね。マスクをしている人は多いですが、普段通り通勤して。シンガポールとは緊張感が違います」

新型コロナウイルスの感染が日本でも広がりを見せる中、2月中旬にシンガポールから一時帰国した日本人金融マンはこう話す。シンガポールはもともと中国からの旅行者が多い国でもあり、新型コロナウイルスへの危機感は日本の比ではないという。

シンガポールの感染者は2月19日現在で81人とされ死者は確認されていない。それでも1月に高級ホテルで開かれた国際会議の参加者によって、韓国やスペインなど5カ国に広がったことが分かっている。海外からビジネスマンが離合集散するハブとして機能してきたシンガポールにとっては重大事なのだ。

一方、日本は厚生労働省2月19日付の資料では、チャーター便での帰国者で感染が確認された13人を含んで73人の感染者が確認され、1人が死亡している。また、2月19日時点で、横浜港に停泊していたクルーズ船の乗客乗員621人の感染も確認されている。

政府も、手洗いやうがいの実行や不要不急の外出を避けるよう呼びかけている。東京マラソンの一般参加が取りやめになるなど、大型イベントを中止するケースも出始めている。

テレワークを導入している企業は25%

だが、目に見えて通勤客が激減しているわけではなく、ラッシュアワーは相変わらずだ。もちろん、会社は、そう簡単に休みにするわけにもいかない、ということだろう。

ここ数年、働き方改革による多様な働き方の推奨で、テレワーク(在宅勤務)を導入する動きが広がっている。HR総研が2018年2月に行った「多様な働き方」実施状況調査(有効回答213)によると、25%の企業がテレワークを導入済みと回答している。同じ調査で、「多様な勤務時間」を導入していると答えている企業が65%で、調査の性格上、改革意欲の高い企業が回答しているとみられるが、おそらく、それ以上に「導入企業」は増えているに違いない。

今回の新型コロナウイルス対策でも、ICT(情報通信技術)系企業など、すでにテレワークが定着している企業では、「もともと本社にずっといる社員は少ないが、新型コロナウイルスの流行で、今はほとんど社員の姿を見かけなくなった」といった声も聞く。当初は、多様な働き方による生産性向上などを目指して導入されたテレワークだが、先進企業では今回のコロナウイルス蔓延にあたって、図らずも危機対応に活用されているわけだ。

伝統的な日本型組織とは相性が悪い

前出の調査で、テレワークを導入していない企業に理由を聞いている。最も多かった(38%)のが「テレワークに適した業務がない」というもの、次いで「勤怠管理が困難」(35%)、「情報漏えいが心配」(34%)などが続いた。特にメーカーでは「テレワークに適した業務がない」という声が圧倒的に多かったという。

もっとも、「適した業務がない」というのは、逆に言えば、業務をテレワークに適した形にしていない、という日本企業の働き方の問題が大きい。いわゆるジョブ・ディスクリプションが不明確で、チームで業務をこなすことが前提になっているため、事務所に集まらないと仕事にならない。伝統的な日本企業の管理系職場は、ほとんどがこうした理由でテレワークが難しくなっている。

ジョブ・ディスクリプションが明確ならば、やるべき事がはっきりしているだけでなく、誰が責任を持って決定するかも明確になる。ところが、日本型の組織の場合、延々と会議を繰り返してなかなか結論が出ない。持ち回りで役員がハンコを押し、誰が責任者か分からない。そんな「合意形成」あるいは「根回し」が必要不可欠と思われている伝統的な会社では、どうやってもテレワークは定着しないのだ。

役所による「促進」は対処療法にとどまっている

「世の流れなので、テレワークは導入済みです」と言う会社も少なくない。だが、よくよく話を聞いてみると、利用しているのは専門職的な、担当領域が明確な人だけで、会社全体がテレワーク対応になっているわけではない、というケースが圧倒的に多い。それでは、パンデミックなどの危機対応としてテレワークが威力を発揮することなどあり得ない。ほとんどの社員がテレワークに対応不能な働き方をしているからだ。

もうひとつ、役所の対応が追いついていないことも大きい。

テレワークについては、厚生労働省総務省内閣府男女共同参画局も東京都も「促進する」という立場を取っている。だが、厚労省は「適正な労務管理下における良質なテレワークの普及促進」、総務省は「ICTの利活用によるテレワークの促進」、男女共同参画局は「育児等と仕事の両立を可能とするためのテレワーク」、経済産業省は「生産性の向上」と、各役所が庭先のことしか考えていない。

もちろん、そうした対処療法的対策も重要なのだが、本源的に日本の働き方を変えるためには法制度などを全面的に見直すことがさらに重要になってくる。だがそうした議論は行われていないに等しい。

時間で報酬を規定する「労働基準法」は時代遅れ

例えば、厚生労働省が所管する労働基準法は、すっかりびついた法律の典型例だ。労働基準法が想定する働き方と、現在の企業での主流な働き方はまったく変わっている。労働を時間によって規制し、時間によって報酬を規定するのは、かつて工場労働が主体だった時代の遺物と言っても過言ではない。

今のようにサービス産業が主体となり、労働時間よりも生み出される成果の評価が重要になる中で、労働基準法が追いついていない、と考えるべきなのだ。

端的な例は、労働基準監督局による定期監督の実施状況を見れば分かる。最新である2016年の労働基準監督年報によると、2016年に労働基準監督局が定期調査に入った13万4617事業場のうち66.8%に当たる8万9972事業場で違反が見つかった。旅館業では80.4%、飲食店では74.9%、小売業では71.3%に達する。つまり、ほとんど法律が守られていないのだ。逆に言えば、労働実態を正しく規制する法律になっていないのではないか。

働き方に関する法律の再整備をする時がきた

テレワークを促進しようとした場合、従来の労働基準法が想定する、事業所に出社して働き始め、昼休みや休憩時間を取り、定時に退社できなければ、残業として割増賃金が支払われるという働き方がベースでは、難しい。ソフトを使って労働時間を把握することなど企業も対応しているが、そもそも労働時間によって働いたことになるという発想自体が過去のものになっている業種職種が圧倒的に多い。

今後、新型コロナウイルスの蔓延がどこまで広がるのか予断を許さない。被害が大きくならずに早期に収束することを祈るばかりだが、それまでの間には、さまざまなイベントの中止や業務の停止、縮小などが現実のものになる可能性がある。

そんな中で、企業活動を停止せず、社員に働き続けてもらうには、通勤電車などでの感染リスクを避けるテレワークが威力を発揮するに違いない。この新型コロナウイルス問題を機に、テレワークに本腰を入れて取り組むべきだろう。

そのためには企業自身がジョブ・ディスクリプションの明確化に取り組み、会社組織の意思決定の在り方なども含めて抜本的に見直す必要がある。また、政府も首相官邸などがリーダーシップを取って、働き方に関する基本的な法律の再整備に本腰を入れるべきだ。

「アスクル・モデル」の今後に注目

SankeiBiz(サンケイビズ)に2月20日に掲載された拙稿です。是非お読みください。オリジナルページ→

https://www.sankeibiz.jp/business/news/200220/bsm2002200500002-n1.htm

社外取締役の独立性確保、大株主牽制

 積水ハウスが4月に予定する株主総会に向けて、和田勇・前会長兼CEO(最高経営責任者)らが、取締役の全面的な入れ替えを求める「株主提案」を会社側に提出した。会社側の取締役選任議案に対抗して、対案を出し、11人の候補者を挙げている。候補者は、和田氏のほか、現役の取締役専務執行役員である勝呂文康氏や、昨年まで常務執行役員だった藤原元彦氏ら4人の積水ハウス関係者、社外取締役としての7人だ。過半数社外取締役にすることが重要だとしている。

 もともと和田氏は2018年1月の取締役会で「クーデター」にあい、会長職を追われた。同社が2017年に55億円をだまし取られた「地面師事件」の舞台となった東京・西五反田の土地の取引を主導した阿部俊則社長(当時、現会長)の解任を和田氏が提案したところ、それが賛成多数を得られず、逆に阿部氏が提出した会長解任動議が可決され、辞任に追い込まれた。こうした「クーデター」が起きるのも独立社外取締役が過半を占め、十分な力を持っていなかったからだ、としているのだ。

 日本の会社で外部役員の重要性が増している。かつては名ばかりの人が多かったが、最近は経営者側に立つのではなく、会社の成長や株主・従業員の利益に沿うかどうかを検討して判断を下す役割が期待されている。

 日産自動車が臨時株主総会を18日に開いて内田誠社長兼CEOらの取締役選任を決議したが、昨秋の段階で西川広人氏(臨時総会で取締役を退任)を社長兼CEOから実質的に解任したのも社外取締役だった。コーポレートガバナンス企業統治)が機能するかどうかは、社外取締役の力量にかかっている。

 もっとも、独立社外取締役がどう選ばれるかが一段と重要になっている。社長が自身の友人に頼んだのでは、独立性は無きに等しい。昨今では、弁護士や公認会計士、学者がひっぱりだこだが、実のところ経営実務に携わった人材は少なく、「ご意見番」的な存在にとどまる。

 何せ、日本には経営人材が乏しいのだ。終身雇用が前提の日本では、若くして経営に携わる機会は少ない上、経営者がリタイアするときには社外取締役の適齢期を過ぎている。また、女性はさらに候補者が少ないため、どこかの社外取締役になると、次々に他の会社からも頼まれて5社も6社も担当するという人が少なくない。

 そんな中、アスクルが3月に開く臨時株主総会で独立社外取締役4人を選任する。候補者選びを担った国広正弁護士に言わせれば、その選定方法と社外取締役の権限を定めた規定は「アスクル・モデル」として世に問えるものだという。

 まずは、会社とも大株主とも一切関係がない候補者を探し、彼らに「抱負文」を書かせて総会前に公表。総会でも議案の評決の前に、質疑を受けさせる。株主総会の場で、その社外取締役が適切な能力を持っているか、判断してもらおうというわけだ。

 また、社外役員とCEOだけで構成する「指名・報酬委員会」で決めた人事案や報酬を取締役会は尊重しなければならないことを規定化した。それでも取締役会が無視したら、委員会の意見を総会で公表することもできると規定している。そこまでアスクルが独立社外取締役の権限にこだわるのは、実質的に支配権を持つ大株主がいる中で、どうやって少数株主の権利を守るかを考えた末のことだ。

 果たしてアスクル・モデルが日本の社外取締役選びの見本となっていくのか、注目したい。

 

積水ハウス地面師事件「マネロン」も焦点?米国人取締役候補らの指摘  取締役全員入れ替え株主提案の背景は

2月18日の現代ビジネスに掲載された拙稿です。オリジナルページ→

https://gendai.ismedia.jp/articles/-/70501

現会長の異常取引

積水ハウスが4月に開く株主総会に向けて、取締役全員の入れ替えを求める「株主提案」を提出した和田勇・前会長兼CEO(最高経営責任者)らが2月17日、記者会見を開いた。

株主提案で求めた取締役選任議案に候補者として名を連ねたのは、和田氏のほか、現役の取締役専務執行役員である勝呂文康氏、昨年6月まで常務執行役員だった藤原元彦氏、同じく昨年まで北米子会社のCEO(最高経営責任者)だった山田浩司氏の4人の積水ハウス関係者と、7人の独立社外取締役候補。

社外取締役には、米国人のクリストファー・ブレイディ氏、パメラ・ジェイコブズ氏に加え、東京成徳大学名誉教授の岡田康司氏、TDKで取締役専務執行役員を務めた岩崎次郎氏、弁護士の佐伯照道氏と齊藤誠氏、日光ケミカルズ執行役員法務部長の加藤ひとみ氏が名前を連ね、会見には佐伯氏を除く10人が顔を揃えた。

積水ハウスコーポレートガバナンスを問い直すのが株主提案の目的だとしているが、2017年に起きた「地面師事件」の真相解明を前面に掲げている。

東京・西五反田の土地に絡んで、偽の所有者との売買契約を結び同社が55億円を騙し取られたものだが、和田氏らによると、これは単なる詐欺被害ではなく、阿部俊則・現会長(事件当時・社長)らが「経営者として信じ難い判断を重ねたことによる不正取引」だとしている。

本物の所有者から契約は偽であるという内容証明郵便が会社に繰り返し届いているにもかかわらず、取引を強行したことや、7月末までの代金支払いを2カ月前倒しで支払ったり、振込ではなく、預金小切手で支払うなど、「業界の常識では考えられない異常な取引」(和田氏)を阿部社長主導で行ったとしている。

また、この取引については、社外役員による調査対策委員会が設けられ、2018年1月に報告書が出されているが、阿部会長や稲垣士郎副会長(事件当時・副社長)ら現経営陣は、裁判所の提出命令にも抵抗を続けるなど、「重要情報の隠蔽を続けている」(和田氏)としている。

責任追及は返り討ちに遭ったが

2018年1月の取締役会では、和田氏がこの土地取引を決裁した阿部社長(当時)に退任を求めたところ、阿部氏を除く10人の取締役の賛否が5対5に分かれて提案は流れたとされる。

それを受けた阿部氏が、今度は和田会長の解任動議を出し、和田氏を除く10人の取締役のうち6人が賛成、和田氏が辞任することになったと言われる。いわば和田氏が「返り討ち」にあった格好になったわけだ。これを元常務の藤原氏は「クーデター」だったとしている。

和田氏を辞任に追い込んだ後、阿部氏が会長、稲垣氏が副会長、仲井嘉浩氏が社長という現体制が出来上がった。

今回の株主提案に至る過程では、米国人投資家グループが大きな役割を果たしている。

和田氏は株主提案に踏み切った理由を「今年1月に勝呂専務から相談されたのがきっかけ」と会見では説明したが、実際には昨年から米国で積水ハウスの地面師事件などを追及する「Save Sekisui House」というサイトが立ち上がるなど、先に動きが始まっていた。米国人投資家グループが和田氏に接触、和田氏が株主提案を決断したとみられる。

事件も追及者も底が見えず

もっとも、提案の背後にどんな投資家がいるのかは現状では見えない。取締役候補に名を連ねているブレイディ氏も積水ハウス株式は1株も持っていない。

財務局に提出された大量保有報告書によると、2020年1月末(決算期末)現在で、米投資会社のブラックロック・グループが合計6.16%を保有しているが、同社とは関係がないとされる。少なくとも5%以上保有する海外ファンドなどは見当たらない。

ブレイディ氏は会見で自らを、金融分野で長い経歴を持つが、安全保障やインテリジェンス(情報収集・分析)が専門としていた。地面師事件については、「預金小切手を使うなどマネーロンダリング資金洗浄)の典型的な兆候がある」として、預金小切手を現金化した三菱UFJ銀行にも問題があると指摘していた。

取締役の全面的な差し替えに成功した場合には、問題の土地取引について徹底的に調査するとしている。現経営陣は「地面師しか警察に告発しておらず不十分」(和田氏)としており、捜査対象を社内や関係先にも広げるよう求める意向を示した。

一見、経営権争いにも見える今回の株主提案だが、ガバナンスを刷新することで株価を引き上げたいという投資ファンドなどの姿がまだ見えず、真の狙いが分からない。和田氏は取締役に選任されたとしても代表取締役には就かないとしているものの、取締役のうち誰を社長にするかも明言を避けている。

4月の総会に向けてプロキシーファイト(委任状争奪戦)になった場合、日本の機関投資家が株主提案に対してどんな投票行動を取るか、現段階ではまったく見えない。