経済困窮化をバネに「知事・市長ダブル選挙」を狙う「大阪維新の会」の戦略

大阪はまさに仁義無き戦いの様相を呈しています。11月27日に投開票予定の大阪市長大阪府知事ダブル選挙の話です。10月23日の大阪維新の会の全体会議で、下馬評どおり、橋下徹氏が府知事辞任を表明、市長選への鞍替え出馬を表明しました。府知事候補には維新の会の松井一郎幹事長を立てることも決めました。橋下氏ら維新の会が掲げる「大阪都構想」を問うためです。

すると今週、週刊新潮に橋下氏の出自を暴く特集が掲載されました。「同和」「暴力団」「自殺」「殺人」という尋常でない文字が躍る記事です。立候補を表明した後にこの記事はどうみてもやり過ぎだと思います。名誉毀損という次元の問題ではなく、立候補妨害ではないでしょうか。

現代ビジネスに書いた「大阪維新の会」のレポートを編集部のご厚意で再掲します。
オリジナルページは→ http://gendai.ismedia.jp/articles/-/23356


 大阪で前代未聞の選挙戦が始まる。任期満了に伴う大阪市長選挙が11月27日に投開票される予定だが、これに合わせて橋下徹大阪府知事が辞職、市長と知事のダブル選挙が行われる見通しだ。橋下知事が率いる地域政党大阪維新の会」が掲げる「大阪都構想」に反対する現職の平松邦夫市長を落選に追い込むために、橋下氏自らが市長選に鞍替え出馬する意向で、後任の府知事候補には大阪維新の会の幹事長である松井一郎府議を擁立すると報じられている。正式には10月23日の大阪維新の会の全体会議で候補者を決定、発表する予定だ。

 大阪維新の会が掲げるキャッチフレーズは「ワン大阪」。大阪府大阪市を解体・再編して大阪都を新設、現在は府と市で別々に手がけている事業を一本化するなど「二重行政」を排除することを目指している。大阪府大阪市の地域ではダブル選挙への関心が急速に高まっているが、全国ベースでの報道はまだ少なく、行政機構の見直しに目が行きがちだ。実際、大阪府大阪市の権限争いと捉えるメディアもある。

 ギリギリまで候補者を正式決定していないのも大阪維新の会の特色だろう。一般には橋下知事が個人で作った、橋下人気にあやかった政党と見られるが、取材をしてみると様子が異なる。

「儲かる大阪」を目指す
「維新の会所属の103人の議員は一枚岩。誰が立候補しても同じ事が言える」と大阪維新の会政調会長を務める浅田均・府議会議長は言う。メンバーの府議会議員、市議会議員らは、「なぜ大阪都なのか」を徹底して議論してきたという。

 選挙に向けた取り組みも異例だ。大阪市内各地で区民会議やタウンミーティングを開催、メンバーの議員たちが住民と一体になって政策について議論する場を作ってきた。「熟議会」と名付けた取り組みもその1つ。大阪維新の会が公募した住民に、大阪が抱える問題点を掲げて議論するものだ。

 10月9日に吹田市で開いた3回目の熟議会を傍聴取材した。出席者は66人。書類選考で選ばれた市民に、メンバーの府議会議員らが加わった。議論のテーマは、府知事選のマニフェスト案だった。「バージョン1.01」と書かれたマニフェスト案を配布、大阪維新の会政調会長を務める浅田均・府議会議長が概要を説明した。

 マニフェストには以下の10の項目が並んでいた。

Ⅰ 新しい大阪、儲かる大阪を実現する仕組み
Ⅱ 国へ分権を迫る
Ⅲ 関西の府県、自治体と広域連合との連携
Ⅳ 首都機能の一部を大阪が担う
Ⅴ 府民サービスの抜本改善

Ⅵ 電力問題への対応
Ⅶ 市町村への権限委譲
Ⅷ 新しい公務員像を打ち立てる
Ⅸ 教育を再生する 府の礎は教育
Ⅹ 財政再建

 真っ先に出てくる「儲かる大阪」とは何か。浅田議員はこう語る。

 大阪はかつては1人当たりGDP(国内総生産)が日本一という時代もあった大阪の地盤沈下が進み、この10年は所得が下がっている。東京や横浜に大きく水をあけられてしまった。大阪市域で最もこの傾向が顕著で、120万世帯のうち4分の1が年収200万円以下、100万円以下も1割を超える。統計を見る限り貧困化が進んでいる。

 つまり、ここで都市経営のビジョンを立て直さなければ、大阪はどんどん貧しくなっていく、という猛烈な危機感が党派を超えて大阪維新の会に集まった議員たちに共通しているのだ。大阪都構想は成長戦略だという。大阪府大阪市がバラバラに成長戦略を打っている余裕はない。大阪の状況を改善するためには、東京で物事を決めてその指示に従う従来のやり方ではもうダメだ、という。要は従来の政策決定の枠組みを根本から変えようという話なのだ。

 維新の会の綱領にも、「広域自治体が大都市圏域の成長を支え、基礎自治体がその果実を住民のために配分する新たな地域経営モデルを実現する」と書かれている。

貧困化を軸に火をつけたい「維新の会」
 経済的な貧困化は住民にとって深刻な問題だ。そこを真正面から取り上げ、住民の危機感に火をつけることで、改革のエネルギーを導き出そうというのが大阪維新の会の狙いであることは間違いない。

 だが現実の選挙となると、理念だけで動かないのは他の地域と同じだろう。当然のことながら、既存の枠組みを支えることに既得権層が反発するのは必至だ。

 大阪維新の会の政策特別顧問を務める上山信一・慶応大学総合政策学部教授は自身のブログ(http://www.actiblog.com/ueyama/)でこう言う。

〈 「(今回の選挙は)既成秩序と地域政党の戦いである。既成秩序の中核にいるのが大阪市議会、特に既成政党である。それを支えているのが既得権益層(労組、各種団体など)さらに中央集権を維持したい中央政府である」 〉

 大阪の維新が成就すれば、それは大阪府大阪市の統合という行政組織の変更に留まらない意味を持つだろう。このままでは経済が行き詰まるという危機感をバネに大阪の選挙民が根本からの作り替えを選択するとすれば、その流れは日本各地に波及することになるに違いない。

 大阪のダブル選挙は、決して大阪という一地域の問題ではない。今後1ヵ月、大阪から目が離せないだろう。