農業特区・養父市と組んだ「改革派農家」岡本重明が語る「日本農業再生の秘策」

中山間地の農業は集約による大規模化で生産性を上げるのは難しいと言われます。しかし、日本の農業の多くはこうした中山間地での農業です。さて、どうやってそれを残していくか。知恵を絞る必要があります。現代ビジネスにアップされたインタビュー原稿です。 オリジナル→http://gendai.ismedia.jp/articles/-/38978


安倍晋三内閣が規制改革の1丁目1番地と位置づける「国家戦略特区」。その農業分野で指定されることになった兵庫県養父(やぶ)市の特区プロジェクトに愛知県から駆け付けた「改革派農家」が関与している。

国家戦略特区は日本農業のラストチャンス

農業生産法人の有限会社新鮮組(愛知県田原市)の代表取締役を務める岡本重明氏。テレビなど各種メディアにも登場し、日本の農業改革を訴えてきた人物だ。

養父市の改革派市長と組んだ岡本氏は、何をやろうとしているのか。養父市の視察に行った岡本氏に聞いた。

 問 岡本さんは国家戦略特区が突破口になると思いますか。

岡本 日本の農業は様々な規制があって新規参入が阻害されています。新しい者が入って来れなければ、競争は生まれず、成長もありません。国家戦略特区で一気に規制を取り払って、意欲のある人たちが農業で儲けられるように変えなければ、日本の農業は滅びます。国家戦略特区の農業特区は、日本の農業にとってラストチャンスだと思います。

 問 なぜ養父市に協力する事にしたのですか。

 岡本 地元の愛知県田原市が特区に立候補してくれれば良いのですが、様々なしがらみもあってか、改革には及び腰です。全国の自治体の首長も、皆このままでは地域の農業は維持できないと感じているのに、農協などの陰に怯えて改革に踏み出せない。ところが兵庫県養父市の広瀬栄市長はとことん改革を貫く姿勢を打ち出しました。よし、それなら俺も養父まで出て行ってひと肌脱ごうと思ったのです。

生産者が農産物に付加価値をつけるしかない

 問 養父のような中山間地の農業は、大規模化で生き残るのは無理だというのが岡本さんの持論ですね。

 岡本 日本のコメの食味は非常に優れているので、大規模化した田んぼでコメを作ってコストを下げれば、十分に輸出競争力がある、という意見があります。しかし、それは広い平地が広がる一部の地域だけの話でしょう。

新鮮組ではタイで日本のコメづくりを始めていますが、日本の水稲栽培技術で食味の良いコメがタイで作ることができるようになるのは時間の問題です。そうなったら、いくら大規模化しても日本国内で作るコメに勝ちようはないでしょう。

 問 ではどうすれば。

 岡本 コメなど農産物に付加価値を付けて、高く売るしかありません。例えば1俵60㎏の玄米を出荷すると1万2000円ぐらいです。その収入ではコストを下げて頑張っても儲かりません。

ところがコンビニで売っているおにぎりは1個100円です。ざっと計算すると60㎏のコメからおにぎりは1400個作れます。つまり60㎏のコメが14万円になるわけです。つまり、農産物のままで売るのではなく、製品に加工して売る術を農村が持つことが重要なのです。

 問 コメのまま輸出しても競争力を得るのは簡単ではないが、ご飯を炊いて売ればよい、というわけですね。

 岡本 今回、養父市と一緒に提案した「ふるさと弁当」はそうした発想をまとめたものです。地元のコメや、ふるさとの食材を、地元で料理し、弁当の形にして冷凍し、それを輸出する。もちろん国内で販売してもいいわけです。世界では日本食は大ブームです。日本の食材をそのまま売っては利益が出ませんが、加工して売れば高い値段になります。

 問 1次産業である農業に、2次産業である加工や外食などの3次産業を組み合わせて、1+2+3で「6次産業」にしようと政府も旗を振っています。

 岡本 そうです。加工したものを観光客に販売したり、それを使った料理を出す農家レストランを経営することで、儲かる農業を実現しなければダメです。ところがそれをさまざまな規制が邪魔しているのです。

養父市で見つけた絶品

 問 何が一番問題ですか。

 岡本 端的な例が株式会社では農地の取得ができず、農業に参入できないことです。農業委員会という古い仕組みがあって、農地を譲渡したり、外の用途に転用するには許可が必要なのですが、よそ者には農地は売りません。養父市では、その農業委員会の権限を市長に委譲することも考えているようです。

 問 農地の取得は農家が関与する農業生産法人にしか認めず、株式会社はダメというのはなぜでしょう。

 岡本 株式会社だと倒産した場合など、農地が勝手に転用されて、農地が守れなくなると言う論理です。取得者が誰であろうと、農地は農地として転用を認めなければ良いのです。株式会社であろうが、農業生産法人であろうが、農家であろうが、農地は農地としてしか使えないようにすればよいのです。ところが、これに真っ向から反対するのは農家や農林水産省です。

 問 転用して売却して利益を得てきたからですね。

 岡本 そうです。農地として税金をまけてもらっておいて、都市化が進んだら住宅地として売却して利益を得てきた農家が多かったということです。

 問 何度か養父市を訪ねてプランを練っているそうですが、ふるさと弁当にふさわしいものは見つかりましたか。


 岡本 農家のご婦人たちが大豆の在来種である「八鹿浅黄(ようかあさぎ)」で豆腐を手作りしてくれました。これは普通の豆腐とはひと味もふた味も違う絶品です。そのおからとひじきを一緒に炊いた一皿も抜群でした。特産の山椒を利用した「おふくろの味」にも出会うことができました。自然志向、健康志向をつかめるような「ふるさと弁当」を開発したいと思います。

岡本重明(おかもと・しげあき)氏
1961年、愛知県田原市生まれ。79年高校を卒業後、農業ひと筋に打ち込み、93年農業生産法人有限会社新鮮組を設立。社長として野菜やコメの生産に加えて肥料など農業資材を手がける。2004年からは農業コンサルタント事業も乗り出す。2011年タイのシンハー社とコシヒカリ栽培を開始。著書に「農協との『30年戦争』」(文春新書)