安倍首相もなかなかやるじゃないか、というのが率直な印象です。海外での講演などで改革姿勢を強調していた安倍首相でしたが、中々実際には改革に踏み出すことができていませんでした。その安倍首相がアベノミクスの一丁目一番地としてきた「国家戦略特区」が決まったのですが、何とか「農業」や「医療」「雇用制度」といった岩盤を俎上に乗せることができました。関係者によると安倍首相の強い意志表示の結果だといいます。フジサンケイビジネスアイ1面コラムに掲載した原稿です。→http://www.sankeibiz.jp/macro/news/140406/mca1404062244003-n1.htm
安倍晋三首相が「規制改革の突破口」と位置付ける「国家戦略特区」が決まった。3月末の国家戦略特区諮問会議(議長・安倍首相)で全国6カ所が選ばれた。近く閣議決定され、5月にも具体的な事業計画を決める「地域会議」が設置される。指定地は「東京圏」「関西圏」「新潟市」「兵庫県養父市」「福岡市」「沖縄県」の6カ所。強い抵抗を押し切る形で「医療」「教育」「農業」「雇用」のいわゆる「岩盤規制」を俎上(そじょう)に載せた。アベノミクスの改革の大きな一歩と言ってよい。
関西圏や東京圏などで今後具体的に検討される「国際先端医療拠点」では、これまで厳しく規制されてきた入院用ベッド数(病床数)が別枠で認められるほか、大学に医学部の新設なども許される方向だ。また、福岡市ではベンチャー企業を誘致するために従来の雇用ルールの見直しに踏み込む可能性もある。
さっそく日本医師会や自民党の厚生労働族議員などが激しい批判を展開している。自民党内では、特区については、日本経済再生本部や政務調査会内閣部会などで主に議論してきた。このため、厚労部会の議員の間では不満が渦巻いている。
同じく「岩盤規制」として安倍首相がターゲットにしてきた農業も同様。農林部会の大物議員は3月に入った段階でも「簡単に農業が特区のテーマになることはない」と徹底抗戦の構えだったが安倍首相に押し切られた格好になった。養父市では農地の売買許可など農業委員会が持つ権限を市長に移すことなどを検討。企業の農業参入などを積極的に推進する意向だ。これに対してJAなど農業団体は「養父市が突破口になり全国で規制がなし崩しになる」と危機感を強めている。
今後の焦点は、特区が本当に「突破口」になっていくかどうか。特区の提案者である竹中平蔵・慶応大教授など改革派は、今回の6つの特区はあくまで第1弾で、今後次々に追加認定されていくべきだ、という姿勢。これに対して、霞が関や業界団体は、特区は今回の6カ所だけで終わらせ、あくまでも限定的な特例としてとどめたい考えだ。
特区発表に際して、竹中氏や坂根正弘・コマツ前会長ら諮問会議の民間人メンバー4人が連名で文書を提出した。そこでは「さらなる『改革拠点』の速やかな指定について」として、愛知県常滑市や北海道の3自治体などを挙げ、速やかに2次指定すべきだとしている。
ところが、会見では、推進役であるはずの新藤義孝・国家戦略特区担当相までが、「それは国の方針ではありません。そういうご提案があったというふうにご理解いただきたい」と述べるにとどめ、追加指定には慎重な姿勢を示した。自民党内ばかりか閣内にも抵抗があるのだ。
安倍首相は「今後さらにスピードを加速して、2年間で岩盤規制改革の突破口を開く」と意気込みを語っている。さらに「次なる大胆な規制改革提案があれば、柔軟かつスピーディーに対応して、事業計画の深堀りや、新たな具体的な地域の指定につなげていくように」と新藤大臣らに指示している。6カ所に続いて次々と指定が出てくるか。特区が規制改革の突破口になるかどうかの試金石になりそうだ。(ジャーナリスト 磯山友幸)