みずほ銀「不祥事」報告書には「C」「D」評価。 辣腕弁護士が立ち上げた「第三者委員会報告書格付け委員会」の意義

弁護士の久保利英明さんらが立ち上げた第三者委員会の報告書を第三者として評価する取り組み。不祥事が起きると決まって「第三者」委員会が調査するケースが増えているものの、実のところ不祥事を起こした組織防衛の一環になっているのを問題視して「格付け」を思い立ったそうです。「うるさい」人たちを怒らせてしまったわけです。その格付け第一弾で俎上に載せたのがみずほ銀行。一刀両断に低評価を与えています。現代ビジネスに掲載した記事です→http://gendai.ismedia.jp/articles/-/39445


玉石混交の「第三者委員会」を格付けする機関が誕生
テレビでおなじみの元検事など著名な弁護士や大学教授を揃え、大部の報告書をまとめ上げる。あたかも中立で独立性の高い「第三者」が司法に代わって問題点を指摘しているという形をとっている。それを当事者である企業などが恭しく受け取り、再発の防止を誓うのだ。それが一種の「儀式」として慣例化しつつある。

だが待ってほしい。そもそも「第三者」とはどんな立場の人たちなのか。企業で不祥事が起きた際に、第三者委員会を立ち上げるのはたいてい「会社」である。不祥事で責任を負う立場になる可能性がある経営者自身が「選んだ」人たちなのだ。

「第三者委員会」という名前が付けば、公正中立なように世の中は感じるが、実態はかなり怪しげだ。かねてから「玉石混交で、不祥事を起こした組織に都合の良い報告書がかなり目に付く」と指摘されてきた。

そんな中で、世の中に出て来る「第三者委員会報告書」の内容を精査して、格付けしてしまおうという組織が誕生した。「第三者委員会報告書格付け委員会」である。独立した個人の立場で評価に加わり、費用も手弁当。ことごとく評価結果はホームページで公開するという仕掛けだ。

委員長の久保利英明氏を筆頭に、國廣正、齊藤誠、竹内朗、行方洋一の弁護士5氏と、高巌、野村修也、八田進二の大学教授3氏、科学ジャーナリストで元日本経済新聞論説委員の塩谷喜雄氏の総勢9人で委員会を構成する。

三者委員会などの調査報告書を『格付け』して公表することによって、「調査に規律をもたらし、第三者委員会及びその報告書に対する社会的信用を高めること」を目的に設立されたと「委員会の目的」に記されている。

「委員が中立」ほか、格付け評価基準の10項目
実は、日本弁護士連合会でも、かねてから「第三者委員会」による報告書に問題が多いものが含まれている点が問題視されていた。委員には多くの弁護士が加わっていることから、メンバーになった弁護士のみならず弁護士会全体の信用を左右する事態が生じるのではないかと恐れたのだ。

2010年には日弁連の業務改革委員会が「企業等不祥事における第三者委員会ガイドライン」をまとめ、一定の歯止めをかけようとした。

にもかかわらず、「ガイドラインの重要な項目に配慮せず、或いは、それに反して『第三者委員会報告書』を僭称したと評価せざるを得ないような報告書の見受けられる」(久保利氏)事態にまでなっていたのだ。格付け委員会が生まれた背景にはそんな切迫した事情もあった。

格付けは、委員会での議論に基づいて各委員がA・B・C・Dの4段階で評価する。委員ごとに評価理由を記載した個別評価書も作成、それらもホームページに掲載することにした。内容が著しく劣って評価に値しない報告書があった場合には、不合格として「F」を付けることにした。

評価基準は、①委員は独立で中立か②調査期間が妥当か③調査体制が十分か④調査スコープが的確か⑤事実認定が正確で説得力があるか⑥原因分析が深いか⑦再発防止の提言として実効性があるか⑧企業や役員の責任に言及しているか⑨社会的意義はあるか⑩日弁連ガイドラインに準拠しているか――などの10項目。

年度末には、委員の投票によって「特に優れた調査報告書3件」を選定することにしている。

みずほ銀行「反社融資」の第三者委員会はどこがダメだったか
その第三者委員会報告書格付け委員会が5月30日、第1回の格付け結果を公表した。俎上に載せられたのは、みずほ銀行が設置した「提携ローン業務適正化に関する特別調査委員会」が2013年10月28日に公表した「調査報告書」。みずほ銀行暴力団など、いわゆる反社会的勢力に融資していた問題に対する報告書である。

事件は、みずほ銀行(みずほコーポレート銀行に吸収合併される前の旧法人)が、オリエントコーポレーションとの提携ローンを通じて暴力団と融資取引を行っていたとされたものだ。特別調査委員会は中込秀樹弁護士を委員長に、志田至朗弁護士、石綿学弁護士の3氏で構成された。

この報告書に対する「格付け委員会」の評価はボロボロだった。

最低ランクの「D」を付けたのが、久保利氏、齊藤氏、塩谷氏、高氏の4氏。その上のランクの「C」を付したのが國廣氏、竹内氏、行方氏、八田氏の4氏で、AとBはひとりもいなかった。野村氏は対象の企業や事案に関係しているため評価には加わらなかった。不合格とはならなかったものの、酷い点数になったわけだ。

個別の評価をみると、さらに手厳しい指摘が加えられている。

久保利氏の評価では、「(企業や組織等の社会的責任など)この点についてはほとんど記述がない。金融庁への報告の過誤や社長頭取の記者会見の遅れなど、単なる過去のキャプティブローン契約の問題を超えて多大の問題点があるのに触れていない」と一刀両断だ。

C評価を付けた國廣氏も「提携ローン問題に限定すれば一定水準の調査結果を出しているものの、本質的な論点が調査対象から抜け落ちており、かつ、原因分析が極めて不十分」と結論付けている。

八田進二・青山学院大教授も、「組織全体の規律の劣化ないしはガバナンスの機能不全等から鑑みて、十分に機能しない内部監査という問題以上に重要な、監査役監査(監査委員会監査)および社外役員の実効性を高めることの必要性についての論及がないことについては大いに疑問が残る」と注文を付けている。

久保利氏はコーポレート・ガバナンス(企業統治)問題など会社法分野の第一人者として長年活躍してきた。NHK職員によるインサイダー事件をきっかけに設立された「職員の株取引問題に関する第三者委員会」の委員長を務めるなど、第三者委員会の委員も数多く経験してきた。企業の不祥事チェックのご意見番的存在だ。

國廣氏も山一證券の簿外債務問題で「社内調査委員会」の委員を務めるなど多くの企業不正・会計不正に関与してきた。

八田氏は会計監査や内部統制が専門で、日本版SOX法の導入にも関わるなど、企業不正防止の学者としては第一人者だ。

そうした“猛者連”が手弁当で格付けし、バシバシ指摘をするわけだから、今後、第三者委員会を引き受ける委員たちにとっても嫌な存在になるのは間違いないだろう。第三者とは名ばかりのまがい物の委員会が減ることを望みたい。