日本はいつから「ホテル不足」になったのか? 〜ああ、空室が足りない!日本に何人の外国人が泊まっているか、ご存知ですか?

8月26日に現代ビジネスにアップされた拙稿です→http://gendai.ismedia.jp/articles/-/44925

どんなホテルも満室!
日本政府観光局(JNTO)が8月19日に発表した今年7月の訪日外客数(推計値)は191万8000人と、単月としては過去最高を記録した。一年前の7月は127万人だったので、51%の増加に当たる。月間ベースでのこれまでの最高は今年4月の176万5000人だったが、これを一気に上回った。

アベノミクスによる円安を背景にした日本旅行ブームが続いている。6月には上海株が急落し、その影響が懸念されたが、ブームにはまったく陰りが出ていない。都会の百貨店などを中心に、中国や香港、台湾からの旅行者による「爆買い」が起き、日本の消費を下支えする役割を果たしている。また、地方の景気浮揚にも外国人観光客の落とすおカネがひと役買っている。

日本におカネを落としてくれるという面ではありがたい外国人観光客だが、そのシワ寄せが鮮明になってきた。日本各地でホテルが足りないのである。

ゴールデンウィークだった今年4月のホテル稼働率は、観光庁の調べによると、シティホテルが80.3%、ビジネスホテルも74.2%だった。中でも観光地の稼働率は高く、京都府ではシティホテルが88.9%、ビジネスホテルが83.1%に達した。

どんなホテルも満室状態といった水準の数字である。首都圏や関西圏のほか、愛知県や福岡県など大都市圏のホテルはほとんど予約が取れない状態になったのだ。この傾向は外国人観光客が大挙して押し寄せた7月以降も続いている。

訪日外国人の増加にともなって、ホテルなど宿泊施設に泊まる外国人の延べ宿泊者数も激増している。東日本大震災があった2011年の外国人延べ宿泊者数は1841万人泊で、日本人も合せた全体の4.4%に過ぎなかったが、2012年には2631万人泊と全体の6.0%に上昇。2013年は3349万人泊で7.2%、2014年は4482万人泊で9.5%まで上昇した。

最新のデータである今年6月の宿泊状況を見ると、外国人の宿泊割合は14.4%にまで達している。宿泊者の7人にひとりが外国人という計算である。もちろんこれは平均だから、外国人観光客に人気のホテルとなると、圧倒的に外国人客で埋まっているという状況になっているのだ。

予約が取れないだけではない。取れたとしても価格が劇的に上昇しているのである。この8月に筆者が実際に泊まった京都のビジネスホテル。15平方メートルのシングルルームは1泊朝食なしで1万5000円だった。アベノミクスが始まった頃でも8000円も出せば泊まれたビジネスマン御用達のホテルだったが、綺麗に改装したこともあってか、一気にグレードアップした。

これでは企業の出張経費の規定オーバーは確実だろう。もはやビジネスユースの常連客より、外国人観光客が上得意ということのようだ。

「空き県」を活用せよ!
政府は2020年までに訪日外国人を年間2000万人にする計画を打ち出してきた。2013年には1036万人と初めて1000万人を突破したが、翌年の2014年には1341万人を記録した。

今年は7月までですでに1100万人を超えており、このままのペースが続けば1900万人を超えるのは確実な情勢だ。よほど一気に円高になったり、世界景気が沈没しない限り、2020年を待たずに訪日外国人2000万人時代がやってくるのは間違いなさそうだ。

問題は2020年のオリンピックに向けて、ホテルなどのインフラが圧倒的に足りないことだろう。新しくホテルを建設する動きも出ているが、かといって資材高騰や人手不足の中で、これからホテルを新設するのはビジネス的には大きなリスクを背負うことになりかねない。オリンピックに向けて過剰な設備建設に走れば、オリンピックの閉幕と共に一気に訪日外国人バブルが弾けることにもなりかねない。

ではどうやって、今後のホテル需要を賄っていくのか。

ひとつはオリンピック後の需要減を見越した宿泊施設を新設することだろう。宿泊施設以外に転用可能なものにするのが不可欠だ。もう1つは大都市周辺の稼働率がまだ低いホテルの活用策を考えることだ。

前述の5月のホテルの客室稼働率は、全国平均ではシティホテルが80.3%、ビジネスホテルが74.2%、リゾートホテルが57.0%といずれも調査開始以来、最も高い稼働率になった、という。だが、これはあくまでも全国平均の数字である。

稼働率が60%を超えている都府県は全国的に見れば少数で、東日本にはまだ50%未満の県がある。こうした地域に観光客を循環させるルートを整備することがひとつの解決策になるはずだ。

「古民家再生」
もうひとつ大きいのは、民家の活用である。総務省が行っている住宅土地統計調査でも820万戸と住宅全体の13.5%に達している。空家の多くは地方にあるが、都会でも近年空家住宅が増えている。

こうした空家を短期の宿泊施設に転用する規制緩和が重要だろう。最近では古民家を宿泊施設に再生するために、旅館業法や消防法の特例を特区内で認めるケースが出てきた。こうした取り組みを全国レベルに広げるべきだろう。

既存の旅館やホテルが客を奪われる、という批判もある。だが、そんなケチな事を言っていてはいけない。これから外国人旅行客がどんどんやって来る中で、旅館やホテルは良いサービスをいままでよりも高い料金で提供すれば良い。

一方で、低価格帯には民家再生の宿泊施設など新しいビジネスが参入すれば良いのである。欧米で広がっているエアビーアンドビーのようなビジネスがどんどん生まれることになるだろう。

2020年に向けたインフラ不足を逆手にとって、新しいビジネスを生み出していくチャンスに変えていくことが求められている。