安倍政権の新たな抵抗勢力?人手不足解消に立ち塞がる「法務省の壁」 外国人雇用のニーズは高まる一方だが…

現代ビジネスに2月1日にアップされた原稿です。オリジナルページ→http://gendai.ismedia.jp/articles/-/50862


日本の「高い壁」がここにも…

2020年の東京オリンピックパラリンピックまであと3年半。世界から大挙してやって来る外国人観光客を迎えるうえでの「人手不足」が懸念されている。

通訳や観光ガイド、飲食や物販などに携わるバイリンガル人材など、「おもてなし」に不可欠な質の高い人たちをどう確保していくのかが、大きな課題になってきた。

そんな中で、日本の文化を発信できる外国人に日本で働いてもらおうという声が強まっている。いわゆる「クールジャパン人材」だ。

母国から来た観光客に日本の魅力を直接伝えられる外国人人材を育てるために、日本で働くことができるようにしようというもので、規制改革を進めている「特区諮問会議」などが提案している。

もちろん、日本全国で無条件に働けるようにしようというわけではない。オリンピック・パラリンピックが開催される東京圏など「国家戦略特区」に限って、外国人就労を大幅に規制緩和しようとしているのだが、規制官庁である法務省が高い壁となって立ちはだかっている。

1月20日、東京・永田町の首相官邸で開かれた「国家戦略特別区域諮問会議(特区諮問会議)」。安倍晋三首相を議長に、関係閣僚と民間人が議員となって、特区を使った規制改革の方針を決める会議だ。

この日は、内閣官房参与で元経済企画庁長官の堺屋太一氏が出席、「外国人雇用の拡大に向けて」と題する資料を元に説明した。

堺屋氏は外国人雇用のニーズが急増しているとして、2つの理由を上げた。ひとつは急速に進む少子高齢化で働き手が減っていること、そしてもうひとつは、外国人観光客が増加して、さまざまな業種で需要が増えたことだとした。

特に「観光関連で、ホテル・旅館だけでなく、ショッピングの現場やイベント会場などの想定されなかった現場でも外国人の対応が欠かせなくなっている」と、ニーズの広がりを指摘した。

そのうえで、「いきなり外国人の移民を受け入れるのではなく、まず各地域での受け入れ拡大を図っていくこと。つまり、横断的・戦略的に国家戦略特区を活用した外国人材の育成と雇用の拡大が必要である」と指摘した。

安倍首相はこれまで「いわゆる移民政策は取らない」とし、外国人の無限定な受け入れには消極的な姿勢を示してきたが、一方で日本で必要な人材は受け入れるとしてきた。

ところが、就労が可能な滞在許可が得られる「専門人材」は対象の職種が限られているため、技能実習制度や留学生制度が、人手不足を埋める「便法」として使われてきた。

厚生労働省が1月27日に発表した「外国人雇用届出状況まとめ」では、2016年10月末時点の外国人労働者数は108万3769人と、1年前に比べて19.4%増加、4年連続で過去最多を更新。初めて100万人を突破した。

中でも増加が目立つのは「資格外活動」に分類される在留許可者。ほとんどが「留学生」である。2012年の10万8492人から2016年には23万9577人へと2倍以上に増加している。本来は勉学が目的である「留学ビザ」で入国した人が働くため「資格外」と呼ばれている。

留学生は週に28時間までしか働くことができないが、現実にはそれ以上働くことが常態化しているとされる。最近急増しているベトナム人の43.3%が「資格外活動」で働いている留学生だ。

技能実習生制度でやってくる外国人も、建て前は日本で技能を習得することだが、本音は日本で働くためにやってくる。いわば出稼ぎである。 

反日」の原因を作っている?

堺屋氏は、日本が外国人労働者をきちんと受け入れず、便法として技能実習制度や留学制度を使っていることが、将来に禍根を残しかねないと言う。

「こうした人たちが短期的に、決して良い労働条件ではない環境で働き、母国に帰っていく。日本に留学した外国人の4分の3が就職することなく、日本を離れる。これが反日の外国人を増やしてしまう、という結果になっている」

そう指摘している。つまり、特区を使って、日本に正々堂々と働きにやってくる若者を受け入れるべきだ、としたのである。

どんな仕事の働き手がその地域で不足しているか、その地域の発展のために、どの分野に外国人を受け入れるかは、地域それぞれが決めるべきだ、というのだ。

堺屋氏が一例として挙げているのは警備員。一見だれでもできそうな仕事で、外国人を受けれれば日本人の職を奪うとして、現在では警備員として外国人が働くことは認められていない。ところが、2020年に向けて開かれる大型イベントなどでは、参加者の大半が外国人になるものも出てくることが予想される。

そうした警備に外国語が不可欠なことは言うまでもない。2020年の東京では、外国人警備員が働くことができなければ、おもてなしはおろか、安全の確保も難しい、というわけだ。

ところが、これに真っ向から反対をしているのが法務省だ。

これまで外国人労働については全国一律、業種ごとに解禁するかどうかを決めてきた。クールジャパン人材についても「業種毎に慎重な議論を行い、時間をかけて対応すべき」としているというのだ。

特区諮問会議の民間人議員であるコマツ坂根正弘相談役は、規制を所管する官庁の対応にブチ切れていた。検討中の規制改革事項について役所の主張をまとめた一覧表が配布されていたが、それに嚙みついたのである。

「前回もお願いしましたけれども、私からしますと、とても大臣や次官レベルが実態を把握した上でこのような回答をしているとは思えません。ぜひ大臣・次官クラスが現場レベルでどんな議論が行われているのか、よく把握していただいて、責任ある回答をいただきたい。それでなければ、時間ばかり費やすだけで、本当に無駄だと思います」

つまり、規制改革案に「ノー」と言っているのは担当者レベルの回答だろう、というわけだ。きちんと大臣や次官まで上げて結論を持ってこい、としたのである。こうした議論を聞いていた安倍首相は最後にこう発言した。

「私は先週、フィリピンなどの東南アジア諸国を訪れ、クールな日本が大好きで、日本語を熱心に勉強している若者たちに出会いました。彼らは、まさに日本とそれぞれの国のかけ橋となる人材であろうと思います。彼らが日本で職につき、母国から来た観光客に日本の魅力を直接伝えることは、両国にとって経済を超えた大きな価値を生み出す。このように確信をしております。

彼らは日本の文化が大好きで、日本語を学んで、これからも人生において日本と関わっていたいという彼らの期待に私たちは応えていかなければならないと、そう強く感じたところでもあります」

会議の関係者によると、発言の後半は役人が用意した原稿ではなく、安倍首相自身のアドリブの発言だったという。

日本の文化が大好きな若者たちを働き手として受け入れるのはウエルカムだと首相自らが発言したわけだ。首相にここまで踏み込んだ発言をされて法務省はどう動くのか。

さすがに「検討中です」という役人の常套句は首相には使えないに違いない。