「損得勘定」では、とうていロシアとは組めない中国の事情 中国をロシアの方へ追いやらないように

現代ビジネスに3月18日に掲載された拙稿です。ぜひご一読ください。オリジナルページ→

https://gendai.ismedia.jp/articles/-/93457

ロシアからの支援要請

ロシアのウクライナ侵攻で、西側諸国によるロシアへの経済制裁が本格化する中で、ロシアが中国に「経済的・軍事的」な支援を要請しているという報道が米国メディアから流れた。これに対して、中国外交部(外務省)の趙立竪報道官は、いつもながらの不機嫌極まりないといった表情で、全面否定。「米国側はウクライナ問題で悪意を持って中国を標的にした偽情報を立て続けに撒き散らしている」と述べた。

当初計画に比べてウクライナ侵攻が難航していると言われるロシアのプーチン大統領からすれば、数少ない友好国である中国に助力を求めたい気持ちは山々だろう。だが、中国からすれば、プーチン大統領が始めたあまりにも無謀な戦争に巻き込まれるのだけは御免被るといったところではないか。

ロシアを表面立って支援し西側世界を敵に回せば、ロシア同様、経済制裁の対象になりかねず、ポストコロナの世界で我が世の春を謳歌しつつあった中国経済が一気に失速しかねない。政権の安定には経済運営の失敗は許されないことを習近平指導部も重々承知している。「損得勘定」でみる限り、中国がロシアに付く可能性は低い。

趙報道官が言う「我々は和平交渉促進のために、建設的役割を果たし続けてきた」というのは建前にしても、「事態をさらにエスカレートさせるのではなく、外交的解決を後押しするべきだ」というのは本音に違いない。報道自体、米国の高官が発信源だとされるが、多分に米国の中国への牽制だろう。さらに踏み込んで、世界経済における中国の地位低下を仕掛けているのかもしれない。

中国の米欧日への深い依存

もはや中国には、米国やEU欧州連合)、日本などとの経済関係を断ち切ってまでロシアを助けるメリットはない。中国の2021年の年間貿易総額は6兆515億ドルと前の年から30%も増え、過去最高を記録した。輸出は3兆3640億ドル、輸入は2兆6875億ドルで、6765億ドルもの貿易黒字を稼いでいる。日本円にして80兆円である。

貿易相手国はASEANが14.5%、EUが13.7%、米国が12.5%、日本が6.1%で、圧倒的に民主主義国との自由貿易体制の恩恵を受けている。輸出を見れば、最大の相手国は米国で全体の17.1%を占めるほか、2番目はEUで15.4%に達する。米国やEUに輸出できなくなれば、大打撃なのだ。一方、ロシアとの貿易額は過去最高とはいえ6兆ドルのうちの1468億ドルに過ぎない。

だが、逆にロシアから見た場合、中国は重要な貿易相手国である。ロシアの貿易相手としてはEUが最大だが、これはロシア産ガスの輸出が中心。これを除くと中国が最大の相手国である。おそらくプーチン大統領は、ウクライナ侵攻で経済制裁を食らったとしても、4割以上をロシア産エネルギーに依存するEUは、禁輸などの強硬措置には踏み切れないと見越していたのだろう。実際に、ロシアからEUへのエネルギー輸出は経済制裁の対象外になっている。

そうなると中国さえ制裁に加わらなければロシア経済に深刻な打撃は受けないと考えても不思議ではない。つまり、ロシアから見れば、中国との貿易は「生命線」の一本なのだ。

安全保障にとって何が重要か

そう考えると、今の中国の対応の意味が見えてくる。米国との対抗上、ロシアとの関係は保ちたいが、かといってロシア側について貿易の実利を失うような馬鹿なこともしたくない。西側諸国を本気で怒らせない範囲でロシアとの経済的なつながりは保つが、目立った支援はしない。何しろ、主だった貿易相手国の米国やEU、日本との「商売」は続け、貿易で儲け続ける。それこそ国力を増し、世界を牛耳っていく道だと考えているに違いない。

日本にとっても、中国との関係を悪化させることは好ましくない。2020年に続いて、2021年も中国向けの年間輸出額が米国向け輸出額を大きく上回った。リーマンショックがあった2008年までは日本の輸出先は圧倒的に米国が大きかったが、リーマンショック後の中国経済の成長で、一気に存在感が高まり、輸出先として米国と拮抗するようになった。

新型コロナウイルスの蔓延は経済構造を大きく変えたが、ここでも経済の立ち直りが早かった中国の存在感がさらに一段高まる結果となった。今や日本の輸出企業にとって中国向けは無くてはならない存在になっている。さらに輸入と輸出を合わせた貿易総額を見ると、圧倒的に中国の存在感が米国を凌駕していることが分かる。

かつて、安倍晋三首相はG7サミットなどの会合に出るたび、ロシアを追い詰めて中国とロシアが関係を深めることについて、首脳たちに警鐘を鳴らしていたという。

ロシアのウクライナ侵攻で、ロシアと自由主義圏の国家が対峙することになった今、中国と敵対して、中国をロシア側に追いやるような事は何としても回避しなければならない。貿易関係を深め、経済の相互依存を高めることが、安全保障上も重要な意味を持つに違いない。