円安でも海外投資家は日本株を敬遠? 「分配重視」では株価は上がらない 復活のシナリオは打ち出せていない

現代ビジネスに1月15日に掲載された拙稿です。ぜひご一読ください。オリジナルページ→

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2年ぶり売り越し

2023年の株式相場はどう動くのか。1月4日の大発会日経平均株価が377円安と大幅下落で始まった。2022年1年間の日経平均は3000円の下落と1割以上の値下がりだったが、その流れを今年も引継ぐことになるのだろうか。焦点は日本株の売買に大きな影響を与えている海外投資家が本腰を入れて日本株を買いに入るかどうかにかかっている。

日本取引所グループが発表する投資部門別売買状況によると、2022年に月間ベースで海外投資家が買い越したのは4月と7月と10月、11月の4カ月だった。年初から大きく円安に動いたことで、海外投資家からすれば日本株は割安になったはずだが、4月に1兆円を超す買い越しをした後、4月にはほぼ同額を売り越した。結局、円安が進んでもほとんどまとまった買いは入らなかった。

円安がどこまで続くか見通しが立たず、さらなる円安で損失を抱え込むリスクを考えていたのだろうか。それほどまでに円安は急ピッチだった。1ドル=150円を付け、政府・日銀がドル売り・円買いの為替介入に動いたことでようやく海外投資家に動きが出た。円安の流れが一段落すると見たのか、10月、11月は買い越しに転じたのだ。買い越し額は11月に1兆円を超したが、動きはそこまで。12月には再び小幅ながら売り越しとなった。

結果、海外投資かは2022年の年間ベースでも、2年ぶりの売り越しとなった。売り越し額2542億円。2021年の3432億円の買い越し同様、大きく売り込むわけでも、大きく買い越すわけでもない、投資姿勢だった。過去に大きく買い越した2013年の15兆円はもとより、大きく売り越した2016年の3兆6000億円、18年の5兆7000億円、20年の3兆3000億円などと比べても、金額は小さく、方向性に欠けていたと言っていい。

国内の買い支えが一段落して

ここ数年、日本株の買い手の中心は国内事業法人である。2022年も4兆4618億円を買い越した。12年連続の買い越しである。しかも2021年の1兆5519億円に比べて大きく増えた。中心は自社株買いと見られる。自社の株価が下落したところで自社株購入を増やしたということだろう。

新型コロナウイルスの蔓延による経済活動の停滞からも抜け出しつつあり、企業収益は順調だ。一方で、新たな事業投資などには慎重なままだ。内部留保が増え続けているのを見ても、企業は手元資金を使いあぐねていることが分かる。そういう意味では自社株を買い戻すのは合理的な行動とも言える。

しかし、それが、日本株全体を「買い支えている」となると話は違ってくる。日本銀行によるETF(上場投資信託)を通じた株式購入は2021年、2022年と大きく減った。GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)など年金基金による日本株買い増しも一段落している。安倍晋三内閣の時には国債中心だった運用ポートフォリを株式に大きくシフトさせ、これが日本株を買い支える格好になっていたのは事実だ。また、日銀の量的緩和政策に伴うETF購入も株価を支えていた。

その2つが一段落するようになって、いよいよ日本経済の「実力」が問われる段階になってきた。日本の個人投資家や海外投資家が日本株を買うのは将来の株価上昇、つまり、日本経済の成長を見通すからだ。

「世界的に見て日本の資産価格はまだまだ低い」という声は海外投資家の間にも少なくない。また、「日本には素晴らしいものがたくさんあるので、再び成長軌道に入れば投資資金が流入し始める」という見方もある。潜在的な成長力は決して低くない、というのだ。

問題は、日本経済が成長軌道に入り、企業収益が拡大して株価の上昇につながるかどうかだ。そうした成長軌道入りが少しでも見通せるようになれば、一気に海外投資家の買いが入るだろう。

世界の投資家は納得していない

前述の通り、安倍首相がアベノミクスを打ち出した2014年には、海外投資家は日本株に殺到し、15兆円を買い越した。安倍首相が強調した3本の矢による経済成長に投資家が期待したということだ。安倍首相はニューヨーク証券取引所で講演し「Buy my Abenomics(私のアベノミクスを買え)」と露骨に呼び掛けた。そうした「期待の醸成」に成功した結果とも言える。

岸田文雄首相も昨年、ロンドンで投資家を前に講演し「Invest in Kishida(岸田に投資を)」と訴えた。岸田首相自身あるいは周囲のスピーチライターが安倍元首相の発言を踏まえ、「2匹目のどじょう」を狙ったのは明らかだ。だが、残念ながら、それで日本株が一気に買われる、という話にはならなかった。円安が進んで「割安」になったにもかかわらずである。

つまり、世界の投資家に納得させる日本復活のシナリオと政策を打ち出せていないということだろう。岸田首相は年明けの会見で「インフレ率を上回る賃金上昇」の重要性を説いた。安倍元首相も3%の賃上げを求め続けていたが、消費者物価の上昇率が3%を超えた現在、それを上回る実質的な賃上げを実現するには5%の賃上げでも不十分ということになる。

だが、賃上げは首相が企業に要請するだけで実現できるものではない。企業の収益力が高まらなければ継続的な賃金上昇は期待できない。岸田首相流の「分配」優先が、消費の増加から経済成長へとつながっていくかどうか、投資家は確信が持てていない。肥大化する財政支出で日銀の量的緩和政策にも限界点がチラつく中で、日本経済にエンジンをかける政策が打てるのか。海外投資家に期待を持たせられるだけの成長戦略が求められている。