「出戻り歓迎」で日本型雇用システムは変わるか? 即戦力だがジョブ型前提 一方で出口はどうする

現代ビジネスに3月27日に掲載された拙稿です。ぜひご一読ください。オリジナルページ→

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日本企業は伝統的に出戻り拒否

日本企業の間で退職した社員を再度雇用する「出戻り」を歓迎する動きが広がっている。もともと勤務していた人材だけに、業務内容にも通じており、人手不足の中で仕事にすぐに戻れる「即戦力」として期待されている。

また、他社への転職によって会社を客観的に見る姿勢が身に付いている点を評価する声も人事担当者からは聞かれる。もともとは出産や介護などのために止むを得ず退職した人の復帰が中心だったが、最近では、転職して経験を積んだ後に戻ってくるケースも増えている。

企業の雇用システムが「出入り自由」になれば、政府が進める「雇用の流動化」のきっかけになる可能性もあるが、一方で、伝統的な年功序列型の人事制度の中での評価の仕方などが確立しないなど、問題点もある。

「出戻り歓迎」の人事制度は、2014年にニトリが「ジョブ・リターン(再雇用)制度」を導入して話題になった。当初は結婚・出産・育児・介護など止むを得ない理由で退職した人を対象に始めた制度だったが、今では転職や留学などキャリアアップを理由に退職した元社員も積極的に雇用するようになっている。

パナソニックも2018年末に、一度退職した人材を「出戻りキャリア」として積極的に採用する方針を表明。実際に、転職してキャリアを積み、日本マイクロソフトの会長・社長などを務めた樋口泰行氏が、パナソニック代表取締役専務執行役員として出戻ったことなどもあり、社内での出戻りに対する抵抗感が一気に薄れたという。

終身雇用・年功序列が前提だった伝統的な日本企業では、転職して他社に移った社員を「裏切り者」「脱落者」とみなすことが多かった。コンサルタントなどとして独立しても、仕事を依頼することを忌避するなど、敵視する傾向が強かったため、「出戻り」社員として受け入れることなど考えられない、という企業が少なくなかった。長年、「出戻り歓迎」を公言する企業はリクルートなどごく一部の企業に限られてきた。出戻りを忌避する傾向はいまだに伝統的日本企業の間には根強く残っている。

「処遇に困る」理由

一方で、人手不足がますます深刻化し、新卒だけで必要な社員数を確保できなくなったことで中途採用が広がっていく中で、自社の業務に通じた「元社員」を受け入れることへの抵抗感が急速に薄れてきた。むしろ、自社特有の仕事の進め方などが分かっているため、即戦力として活用できるメリットもある。

もっとも、伝統的な日本の人事制度の中で、出戻り社員の処遇について企業が戸惑っている側面が強い。外資系人材コンサルティング会社ハイドリック・アンド・ストラグルズの渡辺紀子パートナーは、「従来の年功型の人事制度の中で、同年齢の給与水準に合わせるため、転職していた間の空白期間を穴埋めして同年齢社員に合わせる工夫をしているところがほとんど」だと見る。

欧米企業ならばポストに紐付けて給与などの処遇を決める「ジョブ型」の給与システムのため、勤続年数ではなく職務やポストに応じて適切な給与を支払う仕組みになっているため、中途採用社員の処遇を弾力的に決めることが容易だが、こうした「ジョブ型」の人事制度を完全に導入している企業は日本ではまだまだ少ない。

逆に言えば、「出入り自由」な雇用体系に変えるには、「ジョブ型」雇用に切り替えていく必要があるわけだが、現実にはそうなっていない。さらに、他社での勤務経験や、留学して取得した学位などを加算評価する仕組みを持っている日本企業はまだまだ少なく、留学や転職によるキャリアを経ても、同年齢の社員と同格で再雇用するのが精一杯で、経験をメリットとして給与などを増額する仕組みにはなかなかできていない。

ジョブ型には解雇の制度化が必要

政府は雇用の流動化を推進することを「新しい資本主義」のひとつの柱として掲げ、そのためには職務能力を引き上げる「リ・スキリング」が重要だとしている。そうした中で、「ジョブ型」雇用が広がれば、経験を通じてキャリアアップしてポストに就くことが当たり前になってくる。つまり、元社員の雇用によって「出入り自由」な雇用制度を取る企業が増えれば、政府が目指す「日本型職務給制度」つまり、日本型のジョブ型雇用が形成されていくことになるだろう。

政府の「新しい資本主義実現会議」では日本型職務給制度の具体的な事例を整理して示す方針を示している。自民党の新しい資本主義実現本部でも制度導入に向けた議論が始まっており、6月に閣議決定される「骨太の方針」に盛り込まれることになりそうだ。

もっとも、本格的に「ジョブ型」の仕組みを導入するには、採用したポストで能力を発揮できなかった社員の「出口」をどうするか、という問題がある。欧米企業の場合、毎年、下位10%から15%に退職勧奨することがシステム化されているところも少なくないが、日本では会社の意向で解雇することが判例上、厳しい。

一定の退職手当を支払うことで解雇できるようにするなど「解雇法制の整備」が必要との声も企業側から根強くあるが、労働組合などの反発は根強く、そうした仕組みを導入できるかどうかが最大のハードルになる。