麹町75平米月8万円、赤坂82平米月12万円…超格安の「国会議員宿舎」はいったいなぜ必要なのか 「議員宿舎」に家族と秘書しか入れない理由

プレジデントオンラインに4月20日に掲載された拙稿です。ぜひご一読ください。オリジナルページ→

https://president.jp/articles/-/68749

格安宿舎は「お手盛り」の最たるもの

4月から東京都千代田区にある「参議院麹町議員宿舎南棟」の家賃が9万2210円から8万9642円に、2568円減額された。5年ごとに使用料を見直す規定に基づいたもので、建物が老朽化していることが値下げの理由になっている。麹町宿舎は2LDKで75平方メートル。築25年とはいえ、都心の一等地にあって9万円は、同じ民間物件を借りようとした場合の数分の1だ。

この議員宿舎の家賃、議員宿舎ごとに家賃の見直しが行われているため、しばしば「値下げ」が話題になり、批判を浴びている。2022年4月にも、衆議院赤坂議員宿舎の家賃が入居から15年を経過したのを理由に引き下げられた。こちらは3LDK、82平方メートルだが、家賃は13万8066円だったものを12万4652円に1割も引き下げられた。

ちなみに、こうした議員宿舎の家賃の値下げを決めているのは国会の議院運営委員会。今年の参議院での委員会審議では、日本維新の会が反対したが、与野党の賛成多数で決まったという。便益を受けている自分たちが決めるのだから、「お手盛り」の最たるものと言っていい。

当然、そんな国会議員の特権に、ネット上でも批判の声が噴出している。今年は国民が物価の上昇に苦しんでいるタイミングだけに、「値下げ」報道に「信じられない」といった声が溢れた。

なぜ家賃を「割安」にしなければいけないのか

ところで、何で、国会議員に格安で「宿舎」を提供しなければならないのだろう。そもそも国民よりもはるかに高額の給与「歳費」を国から受け取っている。そこから支払う家賃を「割安」にしなければいけない理屈は何なのか。

金帰月来きんきげつらい」という言葉をご存じだろうか。国会の開会期間中、金曜日に地元選挙区に帰り、また月曜日に国会にやってくる。地方選出議員の行動パターンから生まれた言葉だ。しかも、小選挙区制に変わって以降、国会議員の模範的な行動として語られることも多い。

かつて、中選挙区制の時代には、地元に帰るのは選挙の時ぐらい、という国会議員も大勢いた。二世議員にとっては、地元はあくまで「選挙のための地盤」で、実際には麹町小学校で学ぶなど東京育ちというパターンも少なくなかった。ところが、小選挙制の中で選挙に勝つには頻繁に選挙区の行事に顔を出すことが必要になり、「金帰月来」が「地方議員の鏡」ということになったのだ。

地域利権の代弁者を国会に呼ぶための「宿」

実際には、週末だけ地元に帰るという国会議員は少数で、週に2度3度、東京と地元を往復しているケースが多い。地元支援者の冠婚葬祭への参列が欠かせない「仕事」になっているからだ。もちろん、国家のための「仕事」ではなく、選挙に勝って国会議員の地位を守るため「仕事」である。

地元との間の交通費もばかにならない、と思われるだろうが、そこにはもうひとつの特権である「国会議員用鉄道乗車証」がある。新幹線のグリーン車を含めてJR全線に無料で乗車できるパスだ。

東京に家を格安で用意するのも、往復の足代をタダにするのも、ある意味、明治時代に国会が開設されてから続いている慣行である。つまり、地方で選ばれた議員が東京に出てきて地方の意見を言ってもらうためには必要な経費だ、というわけだ。地方の要望を国政に伝え、道路や橋の建設など地元のための公共事業を地方に引っ張っていく。それが国会議員の仕事という「伝統」だ。

そこには自分の地域の利権を離れて、日本という国家が抱える問題をどう解決していくか、という本来国会議員が果たすべき役割は二の次三の次になっている。そんな地域利権の代弁者に、国会に来てもらうための「宿」が議員宿舎なのだ。

「宿」だから家族と秘書しか入れない

あくまでも「宿」だから、外部からの客を自室に招き入れることはできない。家族と秘書しか入れないのだ。家族ではない親しい女性を招き入れてスキャンダルになった大先生もいた。

本来、国会議員は24時間、国家のことを考えて働いてもらう必要がある。特に大臣・副大臣大臣政務官・大臣補佐官など、政府の一翼を担う立場になった場合、24時間即応態勢が求められる。

緊急事態が発生していた時にゴルフをしていた、といったことが大きなスキャンダルになって以降、地震などの災害でも、大事故でも、あるいは安全保障上の問題が起きても、すぐに官邸に集まるなどの即応態勢が取られるようになった。まあ、「国家」を考えれば当たり前のことなのだが、ようやくそうした体制が取られるようになったのだ。

だからこそ、「格安」の議員宿舎が必要だ、という議論が国会議員の中からも出されるが、東京におらずに地元にばかり帰っている国会議員には耳が痛いだろう。

「宿」ではなく「仕事をする場」に変えるべき

もちろん、こうした危機対応のための拠点として議員宿舎のあり方を見直していくことは重要だが、それだけではない。単なる「宿」ではなく、仕事場としてもっと活用してもらう工夫がいるのではないか。逆に言えば、明治以来続いてきた国会議員の仕事の仕方を大きく変える時期に来ている。

例えば、議員宿舎には来客をもてなすための設備がほとんどない。会議室はあって、官僚や外部有識者との打ち合わせなどに使う議員もごく一部いるが、ほとんど稼働していない。レストランがあるわけでもなく、コーヒーなどを出すにも秘書をコンビニに買いに行かせるありさまだ。外国からの客と食事をしようと思えば、ホテルを利用するほかなくなる。

首相が銀座の高級店に外国人首脳を連れていくことが話題になるが、国賓や公賓などのオフィシャルな晩餐会などは迎賓館で行うものの、それ以外の場合に使える「場所」がないのだ。

特に政府の役職に就いていない国会議員の場合、パワーブレックファストを持とうと思えば、民間のホテルしかない。議員宿舎をそういった「仕事をする場」に変えていくべきではないのか。個人の「家」ではなく「職場」だということになれば、家賃を払わなくても国民は怒らないだろう。

議員会館は2012年の建て替えで広くなった

昼間の「職場」である国会議員会館は、国会に隣接して3棟が立つが、2012年に建て替えられてがぜん「仕事場」らしくなった。それ以前の議員会館は小さな議員室の手前に秘書の机が置かれた狭いもので、来客が多い議員の場合、廊下に丸椅子を出して並んで待ったものだ。これも、国会議員は東京に出てきて国会に出るのが仕事だから、大きな執務室は不要だ、と考えられてきたのかもしれない。

今では議員室と応接室、秘書が仕事をする部屋と3室があるかなり大きなスペースになった。ようやく「仕事場」らしくなった、と言える。

国会議員の場合、秘書が3人公費で付けられる。政策秘書、第一秘書、第二秘書と呼ばれ、国家公務員として国から給与が支給される。国会議員に優秀な秘書、とくに政策づくりに関与する「政策秘書」を置くことで、国会議員がより政策づくりに深く関与できるようにしようという考えだ。

国会議員はどんな役割を果たすべきなのか

ところが、最近、この公設秘書が形骸化している。国家試験を通った人を政策秘書にするという考え方で「政策秘書」制度ができたが、実際には長年務めた秘書が簡単な試験で「政策秘書」になるケースが増えた。かつては難関とされた試験組はなかなか重用されなくなっている。というのも国会議員側が政策秘書の使い方が分からず、パーティー券を売らせるような私設秘書がやる仕事をあてがっているケースが多いからだ。

そもそも、国会議員会館に公設秘書3人がそろっている国会議員は少なく、政策に関心を持たない議員では「留守番」の1人を議員会館に置いて、2人は選挙区に貼り付けているケースが多い。つまり、国会議員の仕事の仕方が、選挙優先の昔からのままになっているため、広い議員会館の部屋も公設秘書もまったく生きていないのだ。

国会議員の仕事の仕方を変えていけば、おのずから必要になる議員会館の部屋や、議員宿舎のあり方は変わってくる。明治以来続く国会議員の「特権」を守ることではなく、国会議員はどんな役割を果たすべきなのか、その仕事をフルにこなしてもらうための設備や制度はどんなものが必要なのかを、一から考え直す時ではないか。