10年以上も上昇を続ける高過ぎる投信手数料は、投信統合簡易化で本当に下がるのか

日本経済新聞にこの記事が出た際、投信運用に長年携わる金融界の幹部から電話をもらった。「あまりにも変だ」というのである。「投資家の利益になる」という触れ込みだが、本当に本当なのだろうか。この第一報はともかくとして、現場の記者にはさらに検証する記事を書いてもらいたいものだ。オリジナルページ→http://gendai.ismedia.jp/articles/-/36442


 そんな金融庁の方針を、7月11日付け日本経済新聞が朝刊1面で報じた。「投信の数が急増し、手数料が過去最高水準に達しているため」、金融庁が「投資家に不利益が生じていると判断」、「投資信託の統合を促す」という内容だった。
 投信の手数料が株式売買手数料などに比べて高過ぎなのは明らかで、これが投資家の不利益を生じているという金融庁の認識は正しいだろう。
 だが、数多くある投信を統合すれば、本当に手数料は下がるのだろうか。

管理コストが下がれば手数料は下がるのか

 記事によれば、理屈はこうだ。投信の残高が小さいと投資家をつなぎ留めるのが難しくなり、残高に占める管理コストの割合は高まる。こうした投信を統合することが簡単になれば、効率化できて、管理コストが下がる。そうなれば、手数料の引き下げにつながる、というのである。

 これまで投信を統合するには、過半数の投資家の書面による承認決議が必要で、現実に統合する投信はほとんどなかった。金融庁は、「同じ種類の資産を組み入れ、投資家に不利益にならないような資産内容の変更にとどまる場合」、書面決議を不要にする方針だという。異なる投資対象や方針を採用している投信の合併は従来通り書面決議を義務づけるとしているが、これについても要件を緩和する方向らしい。

 投信統合の議論は、金融庁の「投資信託投資法人法制の見直しに関するワーキング・グループ」で出てきたものだ。金融審議会の委員を中心とする学者や弁護士など専門家で構成され、2012年3月から12月まで13回にわたって議論された。その最終報告には投信の併合手続き、つまり投信統合の問題が「書面決議を要する併合手続の見直し」と題して、こう盛り込まれていた。

 現在、投資信託間の併合に当たっては常に双方の投資信託において書面決議を要することとされている。これが、非効率な小規模投資信託を存続させ、ひいては経費率の上昇を通じて受益者の利益を害しているおそれがあると指摘されている。投資信託の併合を促進する観点から、併合の前後で「商品としての基本的な性格」に相違がない投資信託については書面決議を不要とすることが適当である。

 このワーキンググループの議論の過程ではこんな指摘も出ていた。

ドイツ証券の村木正雄シニアアナリストが提出した資料には「大手リテール証券の収益構成比の推移」というグラフがあり、投信販売手数料の収入割合が年々上昇、2009年以降、35〜45%に達していること、その一方で、投信残高に応じて入る収入は年々低下、15%前後に留まっていることが図示されていた。
 ちなみに株式売買手数料10〜15%となっている。つまり、大手証券の収益が圧倒的に投信販売の手数料に依存しているかを示していたのだ。これは銀行にしても同じで、銀行の収益に占める投信販売手数料の割合は年々上昇していた。

 日本で販売されている株式公募型の投信は約4000本で、年300本近い新商品が発売されている、と日経新聞の記事にもある。とにかく投信の新商品を売り出し、新しい顧客の資金を獲得することで販売手数料を稼ぐ。そんなビジネスモデルに証券会社も銀行もなっているのだ。

金融機関にとって投信販売は利益率の非常に高いビジネス

 日本では投資家が投信の購入時に払う販売手数料は非常に高い。2013年上期に新規に発売された投信の手数料は2.59%だったという。しかもここ10年上昇を続けているという。投信によっては3%を超えるものも珍しくない。
 ネット証券会社の台頭などで株式売買手数料が大幅に低下する中で、投信販売は利益率の非常に高いビジネスになっているのだ。
 銀行がキャンペーンで新たな資金を預ける場合、半分を投信にすると残りの半分の定期預金の金利を1年間に限って1%上乗せするといったケースが目立った。投信の販売手数料が2.5%入るなら、同額の定期預金に1%の金利を付けても十分に元が取れる。

 低金利の中で1%上乗せと聞けば、凄い優遇金利のように聞こえるが、何ということはない投資家自身が支払った手数料の一部が金利として回っているに過ぎない。

 投信は残高に対しても年間で2%近い管理手数料を取る。米国では一%以下と言われ、非常に高い。だが、金融機関からすれば、ワンショットの売買でそれを上回る手数料が稼げるわけだから、新規の販売に力が入るのは当然である。
 これが新規商品がどんどん生まれ小規模投信が乱立する本当の要因だろう。顧客を新規商品に誘導して、資金をどんどん回転させれば、それだけ手数料が落ちる。金融機関のビジネスモデルの帰結としてファンド乱立が起きたのだ。

 では、投信の統合が簡単になることで、手数料が下がるというのは本当だろうか。
 小規模になって管理コストばかりがかさむことになった投信を統合すれば、投信会社の収益には間違いなく貢献する。では投信会社はその分を自主的に販売手数料の引き下げに向けるのだろうか。

結局のところ得をするのは投信業者ではないか

 本来は販売される投信の数が増えれば増えるほど、商品間の競争が激しくなり手数料の高いものは淘汰されていくはずだ。数が多い方が競争は働くと考えるのが普通だろう。逆に統合しやすくして仮に投信の数が減れば、むしろ手数料は上昇するのではないか。

 いや、それは年間の管理手数料の引き下げにつながるのだ、という反論があるかもしれない。だが、販売手数料と管理手数料の格差が今よりも広がれば、一段とじっくり長期にわたって資金を預かって運用するよりも、短期間で新商品を売買した方が儲かることになる。
金融庁が言う投信統合の促進は投資家の利益のためではなく、投信業者の利益のためではないか、と疑いたくなる。

 しかも投信統合の書面決議を不要とするケースを「投資家に不利益にならないような資産内容の変更にとどまる場合」とした場合、不利益にならないかどうかを誰が判断するのか。過半数の投資家の議決なら裁量の余地はない。だが、不利益になるかどうかという判断を加えるとすると、そこには裁量の余地が生じる。

 案の定、冒頭の日経新聞の記事にはこんな下りがあった。
金融庁は政省令の改正だけでなく、投信を設定する運用会社への監督・検査も強める。監督指針や検査マニュアルの見直し、取り組み状況の点検が焦点となる」

 金融機関の儲け頭である投信販売に、金融庁が裁量行政さながら口をはさむ。そんな下心が見えてくる。