アベノミクスで税収は上振れ それでも「過去最大の予算」では財政再建は無理

税収が大きく上振れしています。アベノミクス効果とも言えますが、それを大盤振る舞いして歳出を拡大してしまっては何もなりません。日経ビジネスオンラインに掲載された原稿です。是非ご一読ください。オリジナルページ→  http://business.nikkeibp.co.jp/article/report/20150115/276248/


 財務省が1月5日に発表した「11月末租税及び印紙収入、収入額調」によると、昨年4月から11月までの国の税収(一般会計分)は、25兆519億円と前年の同期間に比べて11.4%増えた。

 4月に消費税率を5%から8%に引き上げた効果ももちろんあるが、企業業績の好調による法人税収の伸びや、所得税収の伸びが目立った。2014年度の税収は予算では前の年度よりも6.5%多い50兆円を見込んでいるが、このままのペースが続けば数兆円規模で税収が上振れするのが確実な情勢だ。

 「税収は安倍政権になってから12兆円も増えた」

 麻生太郎副総理兼財務相アベノミクスが税収増につながっていると繰り返し発言している。実際、税収面でみる限り、アベノミクスは効果を上げつつあるようにみえる。

 消費増税による税収増も、表面的には小さくない。税率を引き上げた後の8カ月間の消費税収は5兆9228億円。前年の同期間に比べて24%増えた。税率を引き上げた分(国税分4%→6.3%)がそっくり税収増になれば50%以上の増加になる計算だが、そこまでには達していない。増税によって買い控えなど消費減退が起きているためだ。

消費が落ち込んでも税収はアップ

 増税反対派の中からは、「税率を引き上げても、消費が落ち込めば、税収自体はマイナスになりかねない」という声もあったが、そうした事態は今のところ避けられている。ただ、2014年度予算では消費税収を15兆3390億円と見込んでおり、2013年度の決算額10兆8293億円と比較すると42%の増加に当たる。財務省としては達成確実な線を予算にしたということだろう。

 だが、現状の伸び率が、このまま年度末まで続いたとすると、消費税収は予算に届かない可能性もある。年末年始商戦での売れ具合や、住宅建設の回復度合いなどに左右されそうだ。仮に予算を下回れば、増税で景気を冷やしたという批判が一段と強くなる可能性が大きい。

 消費税分を差し引いて、それ以外の8カ月間の税収をみると、大幅に増加している。累計税収は19兆1291億円と前年の同期間に比べて7.9%増えた。

法人税収は21%の伸び

 中でも伸び率が大きいのは法人税収。前年に比べて21%も増えた。アベノミクスによる大胆な金融緩和によって円安が進み、自動車産業など輸出企業の採算が改善して、利益が大きく伸びたことが税収増につながっている。

 所得税も大幅に伸びている。8カ月間の所得税収は8兆9956億円で、6.9%増えた。大企業や公務員の賃金が増えたことが主因。さらに企業業績の好調に伴う配当の増加や、株式売買にかかる譲渡益課税の税率引き上げがフルに寄与していることも大きい。

 税収金額としては大きくないが、相続税の伸び率も大きい。累計で9035億円と25.7%増えた。1月以降は相続税の免税範囲が縮小されており、相続税収も予算(1兆5450億円)を上回る可能性がありそうだ。

たばこ、酒税は減収

 一方で落ち込みが激しいのが、たばこ税や酒税。健康志向による喫煙者の減少や、若者の酒離れの影響で、ジワジワと税収が減っている。予算ベースでもたばこ税は11.1%減、酒税は2.2%減を見込んでいるが、11月までの累計でもたばこは10.1%減、酒は2.6%減となっている。明治以来、酒税は税収の柱だったが、今年度予算では1兆3410億円と税収全体の2.7%に過ぎないところまで縮小している。

 法人税所得税など、消費税以外の税収が現状の7.9%の伸びを続けたと仮定すると、消費税以外の税収は今年度38兆9773億円になる。これに消費税収が予算どおり15兆3390億円を確保したとすると、税収は54兆3163億円になる計算だ。現状では、エコノミストは2兆円程度の税収上振れを想定しているケースが多いが、このままのペースが続くようなら4兆円以上の税収増になる可能性もありそうだ。

 安倍晋三内閣は、1月14日に2015年度予算案を閣議決定したが、その税収予算は54.5兆円。24年ぶりの高水準を見込むが、これもあながち無理な数字でないことが分かる。これに伴って、国債の新規発行も40兆円を下回ることになりそう。

 国債の元本償還や利払いなどの費用を除いた一般経費が税収でどれぐらい賄えているかを示すプライマリーバランス基礎的財政収支)は2015年度予算では13兆4000億円の赤字になる。政府は「基礎的財政収支の赤字を半減する目標の達成にメドがついた」と言うが、単年度で赤字を垂れ流していることに変わりはない。

 にもかかわらず、2015年度の一般会計の予算総額は96兆3420億円と、当初予算としては過去最大になった。昨年秋の概算要求では初めて100兆円を突破していたが、さすがにそれは抑え込んだ。もっとも、ここ数年は補正予算で年度途中に予算が積み増されるのが一般的になっている。2013年度決算の歳出は100兆1888億円で、2015年度も100兆円を突破することになりそう。いくら税収が増えても、歳出が増え続ければプライマリーバランスの黒字化は難しい。

社会保障費削減だけでは足りない

 安倍首相が言うように、デフレ脱却によって景気を好転させれば税収が増え、結果的に財政状態が改善する、というのは正しいだろう。ここ2年間の税収の伸びを見ている限り、アベノミクスの成果が税収増をもたらしているのは間違いない。だが消費税収が税率引き上げほどに伸びていないことを考えると、財務省が主張するように、とにかく税率を引き上げることが優先事項、とはいえないことも徐々に明らかになっている。

 ただ、そうした景気回復によって税収増を実現しても、支出で大盤振る舞いをしていては何もならない。いい加減に歳出拡大を止めることを真剣に考えないと財政再建はできない。最大の課題として指摘される社会保障費の伸びの抑制も不可欠だが、それ以外の歳出も抜本的に見直すことが不可欠だろう。