グローバル社会で活躍するのは、個性豊かな人材 人財アジア社長 岡村進氏に聞く

日経ビジネスオンラインに6月3日にアップされた『働き方の未来』の原稿です。オリジナルページ→http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/16/021900010/060200015/

 グローバル化する経済社会の中で、今後求められる人材とは何なのか。外資系企業の社長の座を投げ打って起業し、ビジネスパーソン向けの予備校を開いた岡村進さんは、「異なる価値観を持つ人々と協働してシナジー効果を生みながら、より大きな仕事の成果を上げられる人」を育てる事が急務だと語る。そのためには、まずは自分自身の個性を磨き、「何のために働くか」を見極めることが大事だという。

「ノーモア資格、ノーモアとりあえずの英語」

将来を見据えてグローバル人材を育てるべきだという声が一段と強まっています。岡村さんは大手金融機関など様々な企業の人事研修なども引き受けておられますが、現場では何が起きているのでしょう。

岡村:先日も大手システム会社で研修を行いましたが、100人以上の社員が集まりました。関心が高いというよりも不安に感じている人が多いという方が正しいでしょうね。経営戦略部門が「グローバル化だ」「海外展開だ」と決めて檄を飛ばしているものの、グローバル人材とは何なのか、何をすべきなのか、きちんと説明していない企業がほとんど。社員は何をやったらいいのか迷っています。TOEICの点数を取ったり、英会話を習いに行ったりするケースが多いわけですが、私は「ノーモア資格、ノーモアとりあえずの英語」と言って最近の風潮を否定しています。

グローバル人材教育というとすぐに「英語」という話になります。

岡村:グローバル人材とは何なのか、定義がきちんとなされていないのです。私はグローバル時代に活躍できる人材を、「異なる価値観を持つ人々と協働してシナジー効果を生みながら、より大きな仕事の成果を上げられる人」だと定義しています。「英語」とか「海外」という言葉は一切使いません。

 グローバル化というのは「世界の中の日本」、「世界の中のドイツ」といった具合に、世界の中でどう生きていくか、戦っていくかという問題です。そんな中で、終身雇用を前提にした同質社会と言われる日本が、最も苦しい変革を求められているわけです。

 まずは、世界は異なった価値観を持つ個性豊かな人から成り立っているのだということを理解しなければいけません。逆に言えば自らの個性というものを磨く必要があるんです。異なった価値観で多様な働き方をしているというのがカギで、それをお互いが理解し尊重することが重要なのです。こうした働き方は、そう遠くない未来に日本でも当たり前になると思います。

もはや「あうんの呼吸」というのは通じない、と。

岡村:海外の人たちと会議をやると、日本人からすれば当たり前と思うことを延々と議論します。結論は見えているんだから、さっさと答えを決めればいいじゃないか、と日本人は思うわけです。ですから、そうした会議で日本人はほとんど発言しません。

 ところが、外国人と議論していて、ある時ふと気が付いたのです。実は結論なんて彼らも初めから分かっている。それよりも誰がどんな考え方をするのかを、議論を通じて確かめているんだ、と。そうしたお互いを理解するプロセスこそが、結論よりも大事だということです。ですから、発言しない日本人は、「何を考えているか分からない」と言われるわけです。


日本企業は「尖がった人材」を潰している

そうした自分自身の意見をきちんと主張する人を育てるのが、グローバル人材教育だという事ですか。

岡村:そうですね。私も日本企業の人事部にいましたが、日本企業は良かれと思って「尖がった人材」を逆に潰しているのではないでしょうか。全体の調和を乱すような人材は困る、という発想が根底にあるわけです。

 こうした人事評価は、終身雇用を前提とした日本型の雇用システムと密接に関係しています。終身雇用が前提だと、仕事の専門能力が足らないからといってクビにはできません。どこかの部門に配置転換して雇い続けることになります。ですから、特定の職種でしか使えない「尖がった人材」よりも、どこにでも配置できる汎用性のある人がいいわけです。

 日本企業も「専門職制度」を導入しているところが少なくありませんが、形だけ海外を真似た制度がほとんどです。海外で、本当の専門職と言われる人たちは、その会社で通用しなければ、別の会社の同じ職種に転職します。また、その会社の待遇が実力以下ならば、別の会社からスカウトがかかります。


崩れかけた終身雇用制は、壊してしまった方が良い

逆に言えば、いつクビになるか分からないということですか。

岡村:外資系企業だからと言って、翌日クビになることなど、まずないのですが、1年、2年たって成果を上げていないと、自分のポストは大丈夫なのか不安になってくる。そうした緊張感の中でグローバル企業のビジネスパーソンは仕事をしています。終身雇用が前提の日本の「ナンチャッテ専門職」には緊張感はありません。

 日本企業はもはや終身雇用を維持することは不可能になっています。実際はかなり崩れているのですから、むしろ、さっさと壊してしまった方が良いと思いますね。

多様な働き方を認めるには、個々の社員の志向を把握する必要があるのではないでしょうか。

岡村:もちろんそうです。日本の人事部は個々人の声をきちんと聞いていません。個性を認めてしまうと日本型の調和が崩れてしまうからです。海外の企業では経営者は目の前の社員の個性をいかに引き出すか、生かしていくかを考えます。働く側からすれば、自分の個性を伸ばすことが他の人との競争に勝つことにつながるわけです。

「ノーモアとりあえずの英語」とおっしゃいましたが、小学校からの英語義務化など、早期教育が日本でも重視されています。

岡村:先日、韓国サムソンの幹部と話しをしていたら、同社のエリート社員の大半は自分の子どもに小学校1年生から月額5万円をかけて英語教育をしていると言っていました。韓国人に英語を話す人が増えたのはそうした努力の結果です。しかし一方で、その分犠牲になるものはあるわけです。しっかりした日本語が話せて日本人としてのアイデンティティをきちんと持てるというのが前提での、英語教育でしょうね。

 ただ、社会人になってからは話が別です。英語力を上げるよりも仕事力を上げる方がはるかに重要です。外資で社長をしていた時、部下の英語の点数なんて見たことはありませんでした。仕事で成果が上がっていれば英語はしゃべっているんだろう、という事になります。仮に英語が得意でなくても、英語が上手な部下を駆使して仕事の成果を出すこともできます。かつては、海外から日本に進出する企業の多くは、英語力を見て日本現法の社長を探していましたが、最近は英語力よりも仕事力を見て選んでいますね。

 人工知能(AI)の進化スピードは速いので、数年すれば、何のストレスも感じない自動通訳が可能になるでしょう。そうなると英語力はますますグローバル人材の武器ではなくなります。


「働く目的」をきっちり見定めて、公言するのが大事

ビジネス予備校で教える際に、どんな事を強調されていますか。

岡村:自分自身の「働く目的」をきっちり見定めて、公言するのが大事だと言っています。私は○○のために働いている、と公言することで、自分の逃げ道をふさぐわけです。「どう働くか」を突き詰めると「どう生きるのか」になります。それを考え、公言すれば緊張感が生まれます。

 どう生きるのか、答えはひとつではありません。いろいろな生き方があります。つまりいろいろな働き方があっていいわけです。自分自身の価値観をきっちり持っていなければ、他の人たちの多様な価値観を認めることなどできません。今の教育は「ハウツー」ばかりが多すぎるのです。グローバル社会で活躍できるのは、豊かな個性をもった多様性あふれる人たちです。