林真理子氏の「やっぱり、お飾り理事長でした」を自ら体現してしまった日本大学記者会見の「席次」

現代ビジネスに8月18日に掲載された拙稿です。ぜひご一読ください。オリジナルページ→

https://gendai.media/articles/-/114978

覚醒剤大麻所持事件で

不祥事続きの日本大学は、本当にガバナンスが効く体制に変わったのだろうか。

アメリカンフットボール部所属の学生が覚醒剤大麻を所持していた容疑で逮捕された問題で8月8日、林真理子理事長、酒井健夫学長、澤田康広副学長が記者会見を開いた。理事長就任から1年の間、世間の耳目を集める事件に直面することもなく過ごしてきた林氏だったが、ついに不祥事の洗礼を食らうことになった。

「理事の中に旧体制の勢力が残っていて、私がお飾りの理事長であるという報道がなされているようでありますが、そのような評価を私はとても残念に感じております」

冒頭、今回の事件について頭を下げて謝罪した林氏だったが、自らが「お飾り」で事態を把握していなかったと報じられていることに語気を強めて反発してみせた。ともかく頭を下げておくのが常道の謝罪会見で反論じみた事を言うあたり、林先生ならではというところだが、問題は本当に林理事長体制で日大のガバナンスが機能しているのか、という点である。

「お飾り」ではない

自らを「お飾り」ではないとした会見で林氏はこうも述べている。

「ご理解いただきたいのは、学長と理事長は役割分担がございまして、学生のことは学長へ。精査して、重要なことになりますと理事長にも上がってきます。適切な時に適切な情報を上げてもらっていると認識しております。情報が上がっていないとの報道のようなことは、ございません」

つまり、学長が精査して重要なことは報告されている、というわけだ。だが林氏は8月2日に報道陣が取材に押しかけた際、「違法な薬物が見つかったことは一切ない」と否定していた。

翌日には、「『今のところは』、見つかってないという意味」と釈明していたが、実際には7月の段階で植物片が見つかっていた。それどころか前年から「大麻を使用している」という通報が大学当局に寄せられ、警視庁にも相談、学生のヒヤリングが行われていたことも明らかになっている。それでも語気を強めて「一切ない」とあのタイミングでなぜ理事長が言わなければならなかったのか。

知っていて隠したのでなければ、学長から報告が逐次上がっていなかったのではないか、と疑われる。林氏の言う「重要なこと」に植物片の没収は含まれていなかったということなのか。薬物使用で逮捕者が出れば学園の信頼を揺るがす大問題である。学生の問題だから教学のトップである学長が分担する問題だ、というわけにはいかない。

危険タックル問題の時には、結局、最後まで理事長は会見に姿を見せなかった。今回は初めから理事長が出席した点で、大きく進歩したことは間違いない。だが、今回の問題で林氏が理事長として危機感を持って情報を収集し、指示を飛ばしていたかというとどうもそうではない。学長と副学長ラインで対応していた、ということなのだろう。

それがガバナンスの問題なのである。林理事長が全体像を把握しながら学長に指示していたのなら分かる。だが、実態は、学長が事実上のトップで、理事長は後から「重要」なものだけ説明されていたのではないか。

理事長の「上座」に座っている人物

実はよく見ると日大の現在の「体制」が会見には如実に表れていた。会見で正面中央に座ったのは酒井学長。向かって左に林理事長、右に澤田副学長が座った。当然、最も上位の人が中央に座るが、日本的には中央の人の左手、つまり副学長側が2位で、理事長は3位ということになる。日本大学という法人の代表者は理事長なので、本来は学長よりも理事長が上位にいる。ところが会見の席次は学長が最上位であることを図らずも示していた。

林氏はそんな席次など気にしなかったに違いないが、会見を準備した事務方は絶対に独断で決めたわけではない。おそらく学長に相談して、学長を中央と決めていたに違いない。

酒井学長は、2008年から2011年まで13代目の総長を務めた。日本大学の場合、総長は理事長よりも格上で、総長が理事長を兼務することもあった。

酒井氏が総長になった2008年は、ちょうど田中英寿氏が理事長に就任した年で、その後、2013年に日本大学は総長制を廃止、当時の大塚吉兵衛総長は学長となり、理事長が学長よりも権力を持つようになった。つまり、酒井学長は、不祥事を起こして逮捕起訴され退任に追い込まれた田中理事長以前の、学長が格上の体制、総長と同じ位置づけを当たり前だと思っているのではないか。

学校法人の代表は理事長で、学長は理事会で選ばれる。日本大学も2022年6月に酒井学長を決め他のは理事会だ。学長を選ぶ理事会の責任者が理事長なので、制度的には理事長が全体のトップ。学長は教学部門を任されているとはいえ、いわば子会社の社長のような存在だ。

それが会見で理事長よりも上座に座っているのはガバナンスの観点から見ておかしいだろう。林氏も、学校運営を行うのは学長の責任で、理事長はそれを監督するだけだと思っているのではないか。だから甘んじて上座を学長に明け渡していたのではないか。

林氏は「お飾り理事長」と批判されることに対して「失礼極まりない」と憤慨する前に、上座に座っている学長に「失礼極まりない」とただすべきだったろう。